91話
竹富は俯いて、深く深く息を吐き出した。
「里長に逆らう事も出来ず……妹を守る事も出来ず……友の苦しみを察してもやれず……。俺は……何て情けない……」
竹富はユルユルと自分の首元に短刀を突き付けた。
「竹富っ‼」
リリの叫びに竹富の手が止まった。竹富の喉元から一筋血が流れる。まるで竹富の涙のように……。
「竹富、今のあんたが従うべきは誰っ⁉」
その声に竹富は顔を上げリリを見た。
「私が……光神リリが命令するわっ‼ 生きなさいっ‼ どんなに無様でも生きなさいっ‼ 今、一人で死ぬ事は私が許さないっ‼」
「リリ……」
カラン……
竹富の手から短刀が落ちた。
「崎野を殺っただけじゃ終わりじゃない。討つべきはあの里長でしょう? 一人で全部終わったつもりにならないで。私達には竹富が必要なのよ?」
リリが竹富に近付き落ちた短刀を拾う。それを竹富に手渡す。そして、竹富の手に自分の手を重ねた。
「リリ……」
「私に誓いなさい。二度と自分で命を断とうとしないと」
「俺……は……」
竹富の手に重ねたリリの手の上に里道の手が重なる。
「里……道……」
「まだ、弟を助け出していないんだ。竹富に手助けしてもらわないと困る」
「そうよ、竹富。分かった?」
「あぁ……」
いつの間にか忍び装束のNPCの死体は消え、崎野の死体だけが転がっていた。
(グラフィックであっても崎野は死んでる……。もしかしたら試作品の1か2のどちらかで崎野は死ぬストーリーだったのかな……。場所は違うかも知んないけど……)
「リリも竹富も、とりあえず浄化した方が良いわよ? 全身血塗れとかマジでグロいから」
サラがマジマジと二人を見ながら言う。
「あ……そだね」
「すまぬ」
リリが浄化の術を使い、竹富がロディ達も含めて回復術を唱える。
「じゃあ、屋敷に向かわなきゃね。あの悪代官面、もう崎野が殺られた事に気付いてると思うわ」
普通なら有り得なくてもゲームならよくある事。どんなに離れてても、なぜか察知されている。
リリは、そう言って歩き出した。胸中は乱れまくっていた。
(崎野を刺しまくったから……ロディはドン引きしてるかも……)
それでも前を見て歩くリリを、追い掛けて来たロディはそっと手を握った。
「ロディ……」
「格好良かったぜ」
「ありがとう……」
リリは、ロディの大きな手を握り返した。