88話
崎野はヒクヒクと引きつった。
「サラ。ぶっ放しても良いけど、周囲に影響出ない程度にしてね」
「りょ〜〜〜かいっ‼」
リリが言うとサラはニヤリと笑って詠唱を始める。里道とロディは走り出した。
「さて、と。崎野、さっさとやりましょうか?」
「マジでやり合うつもりなのか……?」
「さっさと抜きなさいよ。素手でやり合うつもり?」
崎野は震える手で短刀を抜いた。構えがへっぴり腰で情けない。鍛錬すらしていないのではないかと、リリは思ってしまった。
「何よ? あんたが言い出した事じゃない」
崎野はギリッと唇を噛み締める。
「遠慮はしないから。本気で来なさいよ?」
リリが一足飛びで間を詰める。崎野はかろうじて短刀で受け止めるが、足元がフラフラしていて、今にも後ろに倒れそうになる。
「あんた……本気で私の婿になりたいなら、何で鍛錬位しないのよ? 舐めてんの?」
「なぜ……そこまで嫌う……?」
リリは力を込めて崎野の体を押した。よろめきながらも崎野は短刀を握り直して構える。
「何度も言ってるじゃない。私より弱い男は認めないって。それに、隙あらば触って来ようとするクソ野郎なんて大っ嫌いよ」
「だ……い……きら……い……」
崎野はフラつくとギッとリリを睨み付けた。
「どうやっても……手に入らない……ならっ‼」
自棄っぱちになった崎野がリリに向かって短刀を構え走り出す。
「遅いってのっ‼」
リリはケーキサーバーで受け止め、崎野の腹に蹴りを入れた。ふっ飛んだ崎野はゴロゴロと転がった。
「ググッ」
情けない声を出してヨロヨロと立ち上がろうとする崎野にリリはケーキサーバーを突き付けた。
「覚悟出来た?今日……キッチリ決着を付けてあげるわ……」
「リリ……」
リリはグイッと崎野の胸元を掴み立ち上がらせた。
「や……やめ……」
崎野の目が泳ぐ。リリの目がギラリと光る。
「さよなら」
リリがケーキサーバーを振り下ろす。ケーキサーバーがザックリと崎野の肩口に刺さる。
「ギャアァーっ‼」
周囲に崎野の叫び声が響き渡る。NPCを片付けたロディとサラと里道が振り返る。
「一思いには殺らない……。あんた……悪代官面とつるんで、たくさんの人を傷付けて来たんでしょ? 私を手に入れる為に……竹富の妹を捨てたのよね……? 私が知らなかったと思ってんの……?」
水鏡を通じて、リオが教えてくれた事実を突き付けた。