86話
「リリ」
竹富が、いつもより低い声でリリを呼んだ。サラと里道を見ていたリリは竹富を見た。
「何……?」
竹富が戦う理由はあるのだとリオから聞いた。あえて他の2人には言わなかったが。だが、竹富自身に選ばせたかった。命令をすれば、竹富は従っただろう。だが、リリ自身がそれをしたくなくなかった。
「里道の弟を始め、多くの人が人質を取られてると知って、俺に来いと言わないのはなぜだ?」
「私が、強制をしたくないから。私は次期里長だって言われてるけど、私が納得のいかない事を命令したくないの。命を掛けろとは言いたくない……てか言わない。命は、その人の物よ。命を掛けなきゃならない時の進む道は自分で決めて欲しい。それだけよ」
キッパリと言うリリに迷いはなかった。これだけは、ゲーム内だろうが、現世だろうが譲りたくないのだ。
「私は、自分の事は自分で決める。他人に命令されるとか真っぴらゴメンよ。命は一つよ。ヘタレと言われたって、ビビリと言われたって命を大切にするの。だから他の人にも強制したくない。もし、竹富が行かない選択しても私も責めないし、誰にも責めさせやしない。だから、安心して」
「リリ……」
リリは、そう言うとニッコリと笑った。そうして、部屋を出て行った。後に、ロディ、サラ、里道が続く。竹富は1人取り残され、深い溜め息を吐いた後、窓から自然区に向かって行く3人を見送った。
自然区に入り、人が立入らない転移装置前で立ち止まる。
「パノール。ステルフ」
声を掛けると現れる黒と青の毛玉。パタパタと銀色の羽で飛び回りスッとリリの肩にとまる。
「光神の里には、王帝陛下ですら入れないの。掟でもあるし、要石が必要なのよ。だから、パノールとステルフに協力してもらってロディとサラを入れるようにするわ」
「分かった」
「ええ」
2人の返事を聞き、リリは頷いた。するとパノールとステルフはグンッと体を大きく広げ、パノールはロディを、ステルフはサラを包み込んだ。
「うおっ⁉」
「え? モコモコ〜。やん、気持ち良いんだけどぉ〜」
そして、徐々に小さくなって行くパノールとステルフ。
〘うむ。人を飲み込むと言うのは、このような感じなのか〙
〘変な気持ちだね〜〙
パノールとステルフは元の大きさより少し大きい程度になり、スゥ~とリリの中に入った。
「里道、行くよ」
「ああ」
リリと里道は、転移装置を使い光神の里へ向かった。それを、切ないような複雑な顔をして竹富は見送っていた。