82話
広い公園の隅で火をおこし、鍋をかけて魚肉団子入り寄せ鍋風を作る。
「リリは座ってろ。俺がやるから。まだ考えまとまってないんだろ?」
「あ、うん。じゃあ、お願いね」
リリは、近くのベンチに腰掛けて、せっせと夕飯の準備をしているロディを眺めた。
(よくよく考えたら、このゲーム目的がないんだよね……)
本来、ゲームにはあるべき『戦う目的』がなかった事に気付いていた。
(ラスボスが何か悪い事をしている訳でもない……。確かにハルシャギクやハゼランは良くない状況だけど、世界に影響を与えてる訳じゃない……。悪徳政治家や王様が圧政を強いてる訳じゃない……。じゃあ、私達は何の為に強くなろうとした……? 仲間を守る為……。強くなりたいから強くなった……。私が目的としてるのは、リオの要石を探す事と里道の弟と他の人質を助ける事……。そんなのRPGの目的としては弱いんだよ……。もしかして、このゲームの製作者は……)
「リリ。出来たぞ」
「あ、ありがとう」
リリは、ベンチからロディの元へ走った。美味しそうな匂いにつられ、お腹がグゥ~と鳴った。
(多分……私の考えた事が1番しっくり来る気がする……。リオと話せるかな……。まだ、無理なのかな……)
ロディと並んで寄せ鍋風を食べる。他愛もない話をして笑い合う。
(こんな時間が大切なんだ……。笑い合う時間も、共に戦う時間でさえ大切なんだ……)
空を見上げれば、いつもと変わらない月があり星がある。リオに『そんなに時間が経っていない』と言われて気付いていた。月の位置が変わっていない事に。
(きっと……試作品の試作品を作った人は趣味か何かでゲームを作っていたのかもね……)
そう謂えばグラフィックもストーリーも雑だったりしているのが納得がいく。
(ロディやサラは、試作品の中のキャラだったのかな……? それとも、試作品の試作品の中? リオは試作品だったみたいだし……)
どんな理由があったかまでは分からない。でも、今傍にいてくれる大切な仲間。共に強くなろうと誓いあった仲間。
(どう言う結末になるのかなんて分からないけど、ニワゼキショウの北東の遺跡に行こう。第一目標はリオの要石を探す事なんだから)
そして、ロディに視線を移す。鋭い目付きも、ツンツンした髪もイケメンに見えるのは惚れた欲目。
(現世に戻ったら、ゲームの中のロディを大切にするよ。けど、ゲームのロディは……可愛気ないんだよなぁ〜)