80話
ヒメウズの街の自然区の田畑は実りが豊かで、人々はせっせと働いていた。
「ハルシャギクやハゼランに輸出してるの分かるね」
「そうだな」
リリとロディは、ゆっくりと歩きながら話す。
(牛っぽいのも居るなぁ……。牛乳とかチーズとかありそう)
水色の体の3本角の牛もどきが柵の中々で、ゆっくりと草を食んでいた。
(鶏っぽいのも居るし、カスタードクリーム作れそう。フルーツは道具袋にあるし、フルーツタルトに挑戦しようかな)
内壁を過ぎ街中に入っても、活気に溢れていた。しばらくして道具屋に行き、素材を売る交渉をしていたサラが、少し難しい顔をして戻って来た。
「どうしたの? 交渉上手くいかなかった?」
「あ、交渉は上手くいったわ。ただ、リリの言っていた遺跡の情報がなかったのよ」
「え?」
リリが目を大きく見開く。
(リオは……ヒメウズの街の東の遺跡って……。私、聞き間違えた……? ううん。確かに、ヒメウズの東の遺跡で要石を失くしたって言ってたのに……)
「リリ? どうかしたのか?」
ロディが心配そうな声で訊く。
「うん……。ヒメウズの東の遺跡に探したい物があったのよ……」
「遺跡? ニワゼキショウじゃなくて?」
「ニワゼキショウ……? ニワゼキショウの街の東に遺跡があるのっ⁉」
リリがロディの胸元を引っ張りながら訊ねる。
「ああ。俺も行った事はないけど、ニワゼキショウの北東に古い遺跡があって、盗掘が横行してるって聞いた事があるぞ?」
「ニワゼキショウの北東……」
ニワゼキショウはハルジオンの真東に位置している街。
(もし……。もし、ロディがリスティリアと一緒に居なくて、その情報を聞き出せてたら……。ううん。ヒメウズの東の遺跡がないって情報がなければ、ニワゼキショウの遺跡には行くという選択肢はなかった……。テディベアやドラゴンがうろつく外界に、あの頃のステータスで出ていたら勝てずにいた……。やっぱり、リスティリアを連れてヒメジオンに行くのは避けられない事だったんだ……)
まんまと製作者の策に嵌った気がするのは癪だが、そもそもゲームなのだから致し方ない。
「まぁ、道具屋の店主が知らなかっただけかも知れないし」
「うん……」
難しい顔をして考え込むリリに、竹富と里道が声を掛ける。
「里道と手分けをして、この街の周囲に遺跡があるか調べて来よう」
「そうね。お願い」
駈けて行く竹富と里道の背を見送りながら、また変わっている部分に不安になるリリだった。