79話
「ありがとう……。でも……ゴメン。今は、まだ……返事は出来ないの……」
やらなければならない事がある。
リオとの約束。そして、里道との約束。
何より、いつか離れ離れになる……それを分かっていて、簡単にロディの気持ちを受け入れる事は出来ないとリリは思っていた。
「ゴメン……。ゴメンね……ロディ……」
「うん……。そっか。良いんだ。俺の気持ちを押し付けるとか、そんな気はないから。ただ、誰でも良いから女の裸を見たかった訳じゃないって事だけは……」
「そっ‼ そんな事は言わなくて良いからぁ〜っ‼」
リリは、自分の顔が真っ赤なのを見られたくなくて、膝に顔を押し付けて隠した。
「ワリィ」
謝りながら、ロディはリリの頭をクシャクシャと撫でる。その手は、剣士らしくコツコツと骨張っていて、所々硬いマメがあるが優しくて、リリは余計顔を上げられなかった。
(好きになっても……いつか離れなきゃなんないんだよ……。分かってる……。なのに……何で好きになっちゃったんだろ……)
優しいだけじゃない。
仲間を守る為に強くなろうとしてる。
苦手な事から逃げようとしないで前向きに頑張っている。
(こんな男性が傍に居て、好きって言ってくれて……。好きになっちゃ駄目とか……罰ゲーム以外のなんだってのよ……)
その夜、リリは殆ど眠れずに朝を迎えていた。
翌朝
「よし。火の始末もしたし行くかぁ〜」
昨夜の事を感じさせない明るい声でロディが言う。
昨夜、2人で野宿に戻りリリは3人に笑って話した。
「ちゃんと話し合ったよ。詳しくは……今は言えない。でも、いずれちゃんと話すから今は何も訊かないで。ゴメンね」
何かあったのだろうとは思うが、3人は頷き、何も訊かなかった。リリなら、後々話すだろうと信じているから。
「んじゃ、ヒメウズの街に向かおう。ヒメウズの街名物のフルーツタルト楽しみなんだよね」
サラがニコニコ顔で言う。酒豪なのに甘い物には目がないらしく、野宿をしている周囲の果物をせっせと道具袋に詰めていた。
リリが残り火で煮たジャムも味見と言いつつ、かなりの量を食べていた。それでいてスタイル抜群なのだ。
「フルーツタルト作りたいなぁ〜」
「え? 作ってくれるなら、毎日でも食べるわよ?」
「毎日って」
サラと並んで歩くリリを見詰めるロディの顔は、今まで以上に優しかった。