77話
チャポン
(あぁ……。気持ち良い。温泉に入ったら、カッポ〜ンって鹿威しの音が聞きたくなるわね。実際、聞いた事ないけどぉ〜)
リリは、湯の中で思いっきり手足を伸ばす。サラは向かい側に座り伸びをしていた。
「あ〜。気持ち良いわね〜。宿屋のお風呂とは何か違うわ」
「でしょ? あ、サラ行くわよ」
リリが準備していた盆をサラの方に押し出す。湯の上に浮かべた盆がスゥ~とサラに近付き、振動を与えないようにスッと手で止める。
「ありがと、リリ」
徳利や猪口がないから、竹に似た植物に酒を入れ、隣には細い竹で作った猪口を置いた。葉っぱの上に肴を乗せて、竹の楊枝を添えた。
サラは、チビチビと酒を呑みながら肴を口に運ぶ。
「ねぇ、リリ」
「ん? 何?」
「ロディと、どこまで進んでるの?」
ブーッ
リリは飲んでいた瓶入りの炭酸水を吹き出した。
「な……な……な……」
「『な』が、どうしたのよ?」
サラは涼しい顔で訊ねる。
「わ……私がロディと……ど……どこまでって……」
「え? ハッキリ言わなきゃ駄目なの? キスまでとか、肉体……」
「わぁ〜っ‼ 言わなくて良いっ‼」
(何でもない事のように訊くかぁ〜っ⁉)
リリはブクブクと顔の半分位を湯に浸けて、上目遣いにサラを見た。
(サラって設定では18歳だったっけ? でも、色気からしたら……大人よねぇ……)
今のサラは長い銀髪を三つ編みにして、それを頭頂部で髪飾りで留めている。普段見えていないうなじのラインが色っぽくて、年下とは思えない。そのサラから直球で色っぽい話をされると気恥ずかしさが倍増した。
「何? 光神の人って経験が遅いの?」
(経験とか言うなぁ〜っ‼)
「リリって19でしょ? 成人してるじゃない」
(確かに、この世界は15歳が成人だけどっ‼ 現世でも、同い年で経験済みの子は居るけどっ‼)
「ロディとは同い年でしょ? 何か問題あるの?」
(問題ないって、何で思うのよぉ〜っ⁉)
「お互い想い合ってんなら、一回やっちゃ……」
ガサガサッ‼ バキバキッ‼
ザッパ〜ンっ‼
物凄い木を揺らす音と折れるような音がした後、リリとサラの入っていた温泉に黒い塊が落ちて来た。
「えっ⁉」
「何っ⁉」
ゴボゴボ……
ユラユラと浮いて来たのはロディだった。
「ロ……ロディっ⁉」
「こんの覗き魔っ‼ 飛んでけぇっ!!」
サラは手の届く所に置いていた杖を手に取ると風魔法を唱え、ロディを野宿の方向に吹っ飛ばした。