70話
(私はリオと約束したヒメウズの街の東の遺跡に行かなきゃなんないんだし……)
「あぁ、そうね。ヒメウズに行くの良いわね。今、ハゼランやハルシャギクの方に行かない方が良いし」
「どう言う事だ?」
「ロディは知らない? ハゼランやハルシャギクの街は治安が凄く悪くなってるのよ。その上、他所者は街に入れないの。ハルシャギクとハゼランの人間以外はね」
ハゼランは、リリのやっていたゲームではラスボスの統治している街。ハルシャギクは、ハゼランの南にあり影響下にある。
「それって交易の人間もか?」
「そう。両方の街の人間だけが行き来してるんだって。王帝陛下の使いですら門前払いだって」
(ラスボスのウェルディアルは変わってないのかな……? これだけ内容が変わってたら、ラスボスが変わっててもおかしくない……)
「治安悪化ってどんな具合なのか知ってんのか?」
「ハゼランの方は北でしょ? 南からの農産物を輸入してたのに、交易がストップして略奪が横行してるのよ」
どんどんと自分の知っているゲームから外れて行っている。それだけは紛れもない事実。疑いようのない事実。どうしようもない事実。
ロディとサラの会話で、自分がやっていたゲームと同じであろうと思うのは、ハゼランとハルシャギクの街が治安悪化して、住民が出られなくされている事だけ。
「そりゃ……マズいよな? 人間、食わなきゃ死んじまうし」
「でしょ? 私が情報を得た時点で、かなりヤバそうって感じだったみたいだしさ。今、どうなってんだかねぇ……」
リリは眉間にシワを寄せているロディを見る。ラスボスのウェルディアルはロディの実兄で、レオの憧れの騎士だった。ラストバトルではロディとレオとウェルディアルは壮絶な死闘を繰り広げた。
(あれは……もう見たくない……)
思い出しても胸が痛くなる。ウェルディアルの亡骸に縋って泣いているロディとレオの姿を間近で見たら、自分を保てる自信がなかった。
(これだけ色々変わってんなら、ラスボスはウェルディアルじゃなくなって欲しい……)
「じゃあ、ヒメウズに向かいましょ。レベルアップしなきゃ」
「だな。俺、ヤル気出て来たぜ」
「うん。じゃあ、とりあえず今日は宿でゆっくり休んで、朝早くに出発って事にしよっか? リスティリアのヒステリーで精神的に疲れたし、早目に休もう」
ロディもサラも同じだったらしく、思い出して苦笑いをし、食堂を後にした。