64話
「誰? コイツ」
ロディが親指でクイッと崎野を指差す。リリは、深い深い溜め息を吐いた。
「コイツとは何だっ‼」
「うるさいっ‼」
崎野は体を小さくして黙る。リリはロディの方を見る。
「ただのゴミよ。気にしなくて良いわ」
「リリっ‼ 許嫁に対し……」
「うるさいって言ったでしょっ⁉ 許嫁を名乗りたかったら、私に勝ってからにしろって何度も言わせるんじゃないっ‼」
リリがサッとケーキサーバーを抜くと崎野がビビって後退りをする。
「一回、マジでやり合ってみる? 本気でやったげるわよ。何かって言うと触ろうとして来るクズ野郎」
不思議な事に、本気で武器を向けているのに、いつものビリッがなかった。パノールもステルフも止める様子もない。
(マジで葬ってやろうか……。ヤル事しか考えないヤツなんて大嫌い……)
「ちょ……。ちょ……。リリぃ……」
リリの殺気を感じて、崎野は更にビビる。ズリズリと後退り、後ろにあった木に背中が当たる。
「どうする? マジでやる?」
リリの目がギラリと光る。
「リリぃ……」
「情けない声出す位なら、わざわざ来なくて良いのよ? やるの? やらないの? やるなら、さっさと武器構えなさいよ」
ロディが、そっとリリの前に腕を出した。やめておけの意味だろう。
「ロディ……」
「行こうぜ、リリ。どう言う経緯があったのか知らないけど、リリが手を下す価値がコイツにあんのか?」
ロディの黒い瞳が、真っ直ぐにリリを見る。
「……そうね」
リリはケーキサーバーを鞘にしまうと、崎野を睨み付ける。
「今度、意味なく私の前に現れたら、その首が飛ぶと覚悟しておきなさいよ?」
コクコクと頷いた崎野を見たリリは背を向け歩き出した。
(本当……マジでムカつく……。隙あらば触ろうとして来るし……。リスティリアと言い、崎野と言い、何でこんなのにストレス与えらんなきゃならないのよ……。私、何かした? 前世の行いが悪かった……とか?)
「リリ」
「ん? 何?」
並んで歩くロディが話し掛ける。そちらを見ると複雑な顔をしたロディが居た。
「どしたの?」
「さっきのヤツ、リリの許嫁って言ってたけどマジ?」
「うん。まぁ、私は認めてないんだよね」
「リリより弱いヤツは認めない?」
「そう」
そこまで話してロディは立ち止まった。リリは、それに気付き立ち止まる。
「ロディ?」
ロディは黙ってリリを見ていた。