60話
くぐもったような声が聞こえる。全身に焼けたような痛みがあった。
「リリっ‼」
(あぁ……。ロディの声だったのかぁ……)
目を開けたくても、なぜか開かなかった。手も足も……指一本動かなかった。
〘リリ。聞こえるか?〙
『パノール……。私、どうしたの?』
〘リリは、ドラゴンの体液を浴びた上に、跳ね飛ばされたんだよぉ〜〙
『ステルフ……。あのドラゴンの体液って毒だったんじゃ……』
唾液で草木がドロドロになったのを思い出す。
『じゃあ、私の体はドロドロになったの?』
〘心配するな。竹富が直ぐ浄化の術を唱えたからな〙
『そう……。竹富にお礼しなきゃだね』
〘でも、しばらくは動けないよぉ〜。浄化の術でも治し切れなかったんだからぁ〜〙
治り切っていたら、今感じる痛みはないだろうなと思いながら溜め息を吐く。
『皆は無事? 怪我してなかった?』
〘無事だ〙
〘自分の心配しなよぉ〜〙
『確かに、そうだね』
(毒にヤラれた上に、跳ね飛ばされ全身打撲……って処かぁ……)
「リリ、聞こえるか?」
竹富の声がした。声から判断すると疲れはありそうだが無事のようだった。何とか答えようとするが、喉が詰まったような感覚があり声が出なかった。
必死で、一番痛みのない左手の中指を動かした。ほんの少しだけ動いた。
(見えたかな?)
「良かった……。俺、リリは死んだかと思ったぞ……」
(心配掛けてゴメン。って、指じゃ伝えらんないや)
その時、バンッと扉が乱暴に開くような音がした。
「リリっ‼ 道具屋に行って、ありったけの毒消しと治療薬買って来たわよっ‼」
(サラ……。もしかして、竹富の術と道具袋の毒消しやら薬草やらで足りなかったの? ありがとう……)
リリが少しだけ指を動かすと、サラがその指に気付き、そっと撫でてくれた。
「安心して。あのドラゴンの鱗を売り飛ばしてドッサリ金貨を手に入れたからね。リリの壊れた武器も、鍛冶屋の店主に造らせたから。数日で完成するって。今は、ゆっくり休みなよ?」
ピクピクピクピクピク
指を5回動かした。
(ありがとうって伝わったかなぁ……?)
「何言ってんの。リリが体を張ってくれたから、私達は無事だったのよ? これ位のお礼はさせてよ。私とリリは友達じゃない」
(友達……。仲間じゃなくて……友達……)
サラの言葉に泣きそうになる。胸の奥がギュッと締め付けられて涙が薄っすらと浮かぶ。
(サラ……ありがとう……)