58話
ニワゼキショウの街の壁が見えて来た時、森の中から咆哮が聞こえた。大地を揺らし、周囲の空気をビリビリと震わせる。
「今の……何……? サラ、知ってる……?」
「私も聞いた事ないんだけど……」
2人で話しているとリスティリアが乗っている馬型モンスターが怯えて暴れだした。必死でロディが引き綱を引き落ち着かせようとするが、ジタバタと脚を動かしてリスティリアが落ちそうになる。
(モンスターが怯えてる……? これは、ヤバいかも知れない……)
「竹富っ‼ 里道っ‼」
リリは、ここまで呼ばなかった竹富と里道を呼んだ。
ザッ
「おぉ〜っ⁉」
突然、どこからともなく現れた2人に、サラが驚き声を上げる。
「竹富は援護をっ‼ 里道はリスティリアを連れて、ニワゼキショウに向かってっ‼」
「承知っ‼」
里道が、リスティリアの後ろに乗り駆け出した。リスティリアが何か叫んでいるが、モンスターの咆哮にかき消されて何を言っているか分からなかった。
「来るよっ‼ サラっ‼ ロディっ‼」
リリが声を掛け、竹富が身体強化と攻撃力アップの術を唱える。リリとサラ、ロディの体がキラキラと輝く。
3人が武器を構え、サラの周りにユラユラと魔法陣が展開し始める。
バキバキっ‼
大きな木をなぎ倒しながら現れたのは、黒と紫の鱗がヤバさを強調する10mを軽く超えるバカデカいドラゴンだった。
(ドラ……ゴン……っ⁉ なんで……っ⁉)
ギラギラとした金色の目で睨みつけて来る。頭部から上半身は東洋っぽいが、下半身は西洋っぽい中途半端なドラゴン。
リリは高くジャンプして頭部に取り付き、サラが火球を顔面にブチ込み、ロディと竹富が脚を狙う。
ガァァァァ‼
吼えるドラゴンの口から紫色の唾液のような液体が撒き散らされると、それが付着した木や草がみるみる内にドロリと溶けた。
(毒液っ⁉ しかも青酸系っ⁉)
脚元に居たロディと竹富がそれを見て後ろに回り込み関節部分に刃を叩き付ける。リリは、頭部にケーキサーバーを突き立てるが鱗が固くて跳ね返される。
(何よ、この固いのはっ‼)
それでも何度も突き立てるが、ケーキサーバーの切っ先が欠けた。
(ヤバっ‼ 私の武器は売ってないのにっ‼)
初めの街から次の街に向かう所謂序盤で出るにしては強過ぎるモンスターに、リリの背筋がゾクリと寒くなった。