35話
(確か、この角を曲がった所に……あった)
ハルジオンの街の武器屋。
(私の装備出来る武器……。やっぱないか……)
何度見ても剣や斧、杖や弓はあるが、忍者が装備してそうな短剣やクナイの類はなかった。
防具屋も同じ。
「リリ。武器や防具が必要なのか?」
竹富が不思議そうに訊ねる。
「ん? 目新しいのがないかなぁ〜って思っただけよ。気にしないで」
「そうか。なら良いが」
(やっぱ、このまま……かぁ……。どこまでこのケーキサーバーで保つのかな……? 戦ってる最中にバッキリ折れたりしたら命に関わるのよ……?)
モンスターの強さのランクが上がって行くのは当たり前。
(初期装備で行くなんてどんな縛りプレイなのよぉ……。ラスボスに木刀とかやった人、偉いよ)
大した収穫もなく、食材屋で果物っぽい物と野菜数種を数個と調味料を買い足し、三人は前任者と交代をする為に城へと向かった。
パチパチと木が爆ぜる音が響く。
(前任者と交代したら、どっか泊まる所があるかと思ったのに野宿……とはね……)
交代の挨拶を交わし、そのまま城横の森でキャンプのような状態で夜を迎えた。
どうやら反リスティリア派は大した動きがないようで、今は里道が見張りに付き、リリと竹富は 森で待機している。
リリはハルジオンの街の食材屋にあった材料と猪もどきの肉の残りでカレー (らしき物)を作った。
竹富は初めて見る料理に固まっていた。
(そりゃそうよね。カレーなんて食べた事ないよねぇ……)
一応、米らしい物があったので買い、竹っぽい木を切って米と水を入れて焚き火横に置いておいた。
スパイスをそれっぽく混ぜ、カレーっぽくした。
味見をして、それらしい物が出来たと思ったのだが、竹富には未知の食べ物。
竹っぽい植物を削って作ったスプーンを持ったままジッと見詰めている。
「竹富」
リリが声を掛けると
「はいっ‼」
と、素の竹富の顔で答えた。
「はっ。何でしょう?」
竹富の顔が薄っすらと赤いのは、焚き火の所為ではなく、リリに素を見せた事でだろう。
「無理して食べなくても良いよ? 見慣れぬ物でしょ?」
リリが優しく声を掛けると竹富は少し俯いた。
「そうでは……そうではないのです。何とも言えぬ良い香りがしていて、食べてしまうのが惜しい気がしているのです」




