第2章 光神の里って ベタな田舎だった 17話
水晶に手を当てると胸元が鮮やかなアメジスト色の光を放ち、周りの景色が消えた。
一瞬だが船酔いのような感覚に襲われ
「グォゲェ……」
と、声にならない声が出た。
(こ……これ……ヤバくね……?)
この先、何度この水晶の転送装置を使うのかは分からないが、その度に船酔いするのかと思うとウンザリする。
(だ……大丈夫か……? 私……)
ジェットコースターのハシゴが出来る程度に三半規管は強いが、それとはまた違うグニャリ感。
(吐き気はしないけど、何か気持ち悪ぅ……)
深呼吸をして息を整え、周りを確認した。
(古い……神社……かな……?)
目の前には神社っぽい建物があり、振り向けばさっきのと同じ水晶が抱かれた大樹があった。
竹富と里道に続いて歩いて行くと、眼下にはのどかな田舎の風景が広がっていた。
どうやら神社っぽい建物は高台にあるらしい。
(ここが光神の里……。イメージ貧困だなぁ〜。忍者=日本の田舎かよぉ… 。そりゃさ、こんな忍者服着てる奴等の根城がアキバとか新宿みたいなのって変だろうけどさぁ……。もうちょい捻っても良くね?)
田畑が広がり所々に茅葺きの家が建っている。
(あれ……? 壁……ないの?)
ゲーム内では必ずあった街を囲む高い壁は一切見当たらなかった。
(ここの街……いや、村か……。この村の周辺にはモンスターは出ない設定なんだな )
のんびり水色の牛っぽいのやピンクの鶏っぽいのが歩いてる。
オレンジ色の犬 (尻尾が三本あるが )や黒猫 (羽根が生えてるが )も、のんびり昼寝をしている。
「リリ、里長の所に行くぞ。…… 何か思い出したのか?」
黙って景色を見ていたリリに竹富が声を掛けた。
「あ……。そうじゃないの。ちょっと……ね」
まさか『日本の原風景みたいだなと思ってた』と言っても通じないと思い、笑って誤魔化した。
(さて……ここで私はどうなるのかな? 『リリ』としての記憶が思い出せるのか……。元々がない記憶なんだから『書き足される』ってのが正解かな……? もし何も変化がなくて怪しまれて『偽物』って言われて殺されそうになったら、とりあえずここに戻って来なきゃなだし、里長ってのの家からここに戻る道は確実に覚えよう。ヤバくなったらあの水晶を使って、元の街ハルジオンに戻って元の世界に戻る方法を考えよう)