131話
ポケットに手を入れてキーケースを取り出して家の鍵を鍵穴に差し込んで回す。それだけの時間でさえ惜しく感じた。
(パソコン……私のパソコン……早くっ‼)
クソ狭いワンルームの五歩くらいしかない廊下も長く感じるし、部屋のドアを開けて直ぐに見えるパソコンの前にたどり着くのに三度も転びそうになる。
パソコンの起動ボタンを押すのももどかしい。
(早く起動しなさいってばっ‼ ポンコツっ‼)
中古で買った古いパソコンは起動するまでに時間が掛かるのだ。いつもはチラチラ見ながら着替えたりしていたが、今日はパソコン前に立って待っているから余計時間が掛かってイライラが増す。
(やっとついたっ‼ …………あれ?)
パソコンの画面を凝視する。
(何で……? 何で……ないの……?)
いつもあるゲームの表示がなくなっていた。
(消えた……? いやいや、誰が消すってのよ?)
一人暮らしで、彼氏もおらず、家族は遠方。そんな状況で、コンビニに行く前には表示されてたゲームのアイコンがなくなるなんて有り得ない。
(仕方ない……)
もう一度読み込ませれば良いかと思いゲームをケースから出してトレイに乗せた。
ウィン……
軽い音がするだけで、ちっとも読み込まない。
(ちょっとっ‼ この緊急事態にパソコン壊れたとか言わないでしょうねっ⁉)
何度もチャレンジしてみたがゲームは読み込まれず、光里はペタンと床に座り込んだ。
(ロディ……。あれからどうなった……? どんなエンディングを迎えた……? みんな幸せになれた……?)
止まったはずの涙が、またポタポタと床に落ちた。
(サラと里道は結婚したの……? 紀高は新しい里長になる為にリオが色々教えるはずだったよね……? 竹富は、ちゃんとリオに好きだったって告白したの……? それともリオから告白したの……? 新しい光神の里はどうなったの……? ステルフは……? パノールは……?)
ギュッと目を瞑るとみんながそこに居てくれる気がした。
(ロディ……。ロディ……。会いたい……。ロディに……会いたい……。会いたいんだよぉ……。ロディ……)
唐突にゲームの中に行き、そして唐突に戻って来てしまった。
時間にすれば一時間も経っていなかった。
(ロディ……。何で……何で……ロディは、ここに居ないの……? 居なくて当たり前なのは分かってるけど……ロディに会いたい……)
大きくて優しい手で頭を撫でて欲しい。
そんな事を思いながら、光里は一人泣き続けた。