130話
ザワザワ……
(……ん……。何……? うるさいんだけどぉ……)
「大丈夫ですか? 聞こえてますか?」
若い男性の声が間近に聞こえた。
(誰……? ロディでもないし……竹富でも里道でもない……)
ゆっくり目を開けると、白いヘルメットを被っている若い男性が目の前に居た。
「あれ……? ここ……どこ……?」
「一丁目のコンビニの前ですよ。覚えてますか?」
(コンビニ……? 一丁目……? てか、コンビニなんてあったっけ……?)
ゆるゆると考える。
(コンビニ……。あっ!!)
頭の中のモヤが晴れるような感覚がした後、気付いた。
(ここ、いつものコンビニだっ‼)
ガバッと起き上がると後頭部に痛みが走った。
(いっ……たぁ……)
後頭部に手をやると見事なまでのタンコブがあった。
「頭を打ってるんですから、いきなり動いちゃダメですよ」
声を掛けてくれていたのは救急隊の人だった。
「あの……私……どうしたんでしょう……?」
恐る恐る訊いてみた時、一台の救急車がサイレンを鳴らして走り去った。
よくよく周りを見ると赤いトラックが街路樹に突っ込んで停まっていた。そして、何台ものなぎ倒された自転車があった。
「あの赤いトラックが居眠り運転で街路樹に当たって、傍に居た自転車を巻き込んだんですよ。あなたは、その自転車に積んであった荷物が背後から当たって、コンビニの硝子でオデコを打って、気を失って後ろに倒れたんです」
「あ……はぁ……」
後頭部のタンコブも痛いが、オデコにも痛みがあった。
(あぁ……。後頭部もオデコも痛いけど……私のダッツが……期間限定の……最後の一個だったのに……じゃなくてっ‼)
膝を抱えて泣きたい気持ちになったが、そんな事はどうでも良いと思い直した。
(早くっ‼ 早く帰らないとっ!! ゲームがどうなったか確認しないとっ‼)
ダッシュで帰ろうと立ち上がった光里の腕を救急隊員がガシッと掴んだ。
「ど……どこに行くつもりですかっ⁉」
「どこって家に帰るのよっ‼」
「はい? あなたは頭を打ったんですよ? 病院に行って検査を……ちょっとっ‼」
救急隊員の静止を振り切って光里は走り出していた。
(早くっ‼ ゲームを……ロディがどうなったのかっ‼ リオが……竹富が……里道が……サラが……)
駆け出しながらなぜか涙が溢れ出していた。
何の涙か分からなかった。ただ、止めどもなく溢れて来てどうしようもなかった。