129話
空を焼くかのように夕焼けが世界をオレンジ色に染め始めた頃。
コンコンコン
軽いノックの音がした。
「ん? 良いぞ」
風呂に入った後のラフな格好のロディはドアに向かって応えた。
ドアが開き姿を見せたのはリオだった。
「リオ……か」
「これ、返しておこうと思って」
スタスタと室内に入ったリオは手を差し出した。
手の中にあったのはリリの要石。
(リリ……)
「記憶の共有は終わったわ。リリは……みんなと良い時間を過ごしたのね……。リリは最後まであなたを守りたいと強く強く思っていたわ。だから、これをあなたの御守りとして持っていてあげて」
ロディは震える指でリリの要石をつまんだ。
(リリ……。おかえり……)
『ただいま、ロディ』
いたずらっ子のような笑みを浮かべたリリが目の前に居る気がした。
「それとこれを」
リオが差し出したのはリリのケーキサーバー。
「あんたは使わないのか?」
「それも良いかなって思うぐらいに良い品だけど、これはあなたを愛したリリの物だから、あなたが持っている方が良いと思ったの」
少しの間、リリのケーキサーバーを見ていたがロディはそっと鞘に収まったケーキサーバーを手に取った。
「じゃあね」
リオはロディに背を向けた。
「ちょっと良いか?」
「何かしら?」
「リリと記憶の共有をするって言ってたろ? リリは……『日本人』って言っていたけど、どう言う事なんだ? あんたは知ってるんだろ?」
リオは真っすぐに自分を見ているロディに少し笑った。
「そうね……。あなたには聞く権利があるわ……」
リオは、そう言うと部屋の隅にあるソファーに腰掛けた。
「私とリリがなぜ入れ替わったのか……。リリがどう言う世界に住んでいたのか……。順を追って話すわね」
(リリが……? ここがゲーム……?)
ロディはリオの話を聞いて分からない部分もあったが、リリが戸惑いながらも一生懸命生きていたのが分かった。
(俺の事……ちゃんと好きでいてくれたんだ……。元の世界に戻るからって……俺を……気遣って……)
ノゾキをしてしまった事もオデコにキスした事もリオにはバレてしまったが、リリの気持ちを教えてもらった事でチャラにした。
リオはロディが一途にリリを想っていたのだなと思った。
(リリ……。幸せな時間だったのね……。私も、リリが私の代わりにここに居てくれて良かったわ。ありがとう、リリ)
リオは薄紫になってしまった空の向こうをジッと見詰めた。