最終章 そして未来へ 128話
ハルシャギクでは紀高が頑張っていた。
元々、知っていたと言う事もあるのだろう。成人の儀も終えていない紀高の指示に逆らう人間は居なかった。
〘紀高。ステルフ達が戻って来るようだ〙
『パノール。全員無事?』
〘うむ。大した怪我もなく無事のようだ〙
『良かった』
紀高は里道から託された道具袋の中身を上手くやりくりしながら、竹富から譲り受けたクナイで狩りにも出掛けていた。
人質の中には外界を旅した事のある人も数人居たので、小型のモンスターくらいならば狩れるようになっていた。
(兄上のようになりたい)
そう思っていた紀高の夢は着実に叶う方向へと進んでいた。
その時、大きな影が紀高とパノールの上に現れた。
(え?)
見上げた紀高が顔面蒼白で固まった。
(ド………ド………ド………ドラゴンっ⁉)
〘おお。戻ったようだぞ〙
『え? え?』
〘本来の姿のステルフだ〙
『えぇ~っ⁉』
大きな大きな銀色の翼と夏空色の巨大な体。どう見ても小さな毛玉のようだったとは思えない巨体がスゥーと半壊した屋敷の前に降り立った。
「兄上っ‼」
「紀高。無事だったようだな」
「はいっ!! 兄上もご無事で何よりです」
紀高の姿を見付けた里道は素早くステルフから飛び降りた。そして、駆け寄った紀高の頭を里道が撫でた。
リオ達もステルフから降りると屋敷内に居た人々がリオの姿を見付け集まって来た。
「リリ様、ご無事で何よりです」
何の疑いも持たない紀高はリオに頭を下げた。
「よく頑張りましたね、紀高」
「ありがとうございます、リリ様」
そんなやり取りをロディはステルフの足元でジッと見ていた。
(……リリは……リリなんだよ……。あのリリじゃ駄目なんだ……。俺にとってのリリはあのリリなんだよ……)
竹富や里道にとって『里長』と言うのは大切な存在なのだろうと思う。だからリリであってもリオであっても大切にするだろう。
(竹富達にしたら、リリ……リオだっけ? あっちが元々の主だもんな……)
竹富達がリオが戻ったからとリリの事をなかった事にはしないとは思っている。
リリが消えた時、竹富と里道が泣くのを我慢していたのは分かったから。
(俺……。これからどうすっかな……)
リオと竹富達は新しい光神の里を作って行くだろう。サラは里道と一緒になるだろう。
(リリの思い出と一緒に旅すっかな)
その日は、とりあえず屋敷で体を休めて翌日に備えようとロディは思った。