126話
(脱出……間に合わないっ‼)
ロディ達が何か叫んでいるが聞こえないくらいの轟音が響いていた。
階段に向おうとしても立っていられないぐらいに畳も天井も波打っていた。
(駄目……っ‼)
リリは死を覚悟した。
「グァオーーーーーン」
その時、空気をビリビリと震わせる咆哮が耳に届いた。
(い……今のはドラゴンの鳴き声……? 今……ドラゴンなんて相手にしてらんない……っ‼)
よろめくリリの目の端に映ったのは、大きな銀色の翼を広げた夏の空のような青い巨大な竜の姿だった。
(青い……竜……?)
〘リリってばボクが分からないのぉ〜?〙
(え?)
青い竜は崩れ落ちる瓦礫をものともしないで、リリ達五人を背に乗せると悠々と空へと舞い上がった。
「ステルフ……なの……?」
「「「ステルフっ⁉」」」
「青毛玉ちゃんっ⁉」
リリの呟きにステルフは気持ちよさそうに羽ばたくと中央広場へと降りた。
「ステルフっ‼ リオはっ⁉」
〘私は、ここよ〙
ステルフの大きな爪が器用にリオの要石をつまんでいた。それをそっと地面に置くと半透明のリオが姿を現した。
「よ……良かったぁ……」
リリはステルフの広い背中に倒れ込んだ。
「リリっ⁉」
「だ……大丈夫……。安心したら腰が抜けたみたい」
「脅かすなよぉ……」
ロディは、今にも消えそうなリリを大切な宝物のように抱き締めた。
ドドド……ン
大きな地響きを立てて里長の根城は崩れ去った。それをリリはジッと見ていた。
(終わったんだな……本当に……。あの城趾のグラフィックどうなるんだろ……? 露天風呂の湯桶みたいに元に戻るのかなぁ……?)
「リリ?」
ロディの声が間近に聞こえ、リリはハッとした。
「……っ⁉」
視線をロディに戻すと十五センチくらいの位置にロディの顔があった。
心配そうに寄せられた眉間のシワでさえ愛おしく思えた。
(ロディ……。ちゃんと守れて良かった……。いくらゲームの中だとしても、ロディが死ぬ処なんて見たくなかったしさ……)
リリは、そっと手を伸ばしてロディの頬に触れた。
(あ……ヤバ……。手の感覚なくなってる……)
触れたはずのロディの頬の体温が分からなくなっていた。
「ロディ……。大好き……」
(クソゲーじゃなかったよ……。ロディやみんなが居てくれたから……)
そう言った。言葉に出来ていたかどうかは分からない。
リリの姿はロディの腕の中から消えた。