117話
「お疲れ様」
リリは道具袋から水筒を取り出して二人に手渡した。
「す……すまない……」
「助かる……」
二人は道具袋から水筒を取り出すのも億劫といったぐらいに疲れていた。
二人は一気に水を飲み干すとホゥと息を吐いた。
リリは周囲を見回した。
(NPCは居ない……。モンスターの気配もない……。悪代官面は、人っ子一人居ない街でボス気取りか……。あの城の中で天下人にでもなったつもりなんだろな……)
内壁の中にモンスターが居ないのは自分のお膝元をモンスターに彷徨かれたら困るって処だろうとリリは推測した。
(さて……あの城の中はどうなってるのかしらね? ダンジョン風? それとも本当に城っぽくしてる?)
そびえ立つ城。城に詳しくないリリはどこの城をモデルにしたのか分からない。
(お城……。えっとぉ……姫路城とか……大阪城とか……名古屋城とか? 形だけだと五稜郭って好きなのよね。あ〜。後、ひこにゃんは可愛い)
他にも城はあるのだろうが、大きな城と言えばそれくらいの知識しかなかった。
(てかさ、忍者って城の警護とか潜入するんであって城主じゃないっての。分かってんのか? 悪代官面)
ここまでストーリーや設定が歪んでしまったら、製作者に悪態をつく気にもならない。
「とりあえず息が整ったら腹ごしらえしようか? モンスターもNP……人も居なさそうだし、落ち着いて食べられそうじゃない?」
リリの提案に四人は頷き、中央広場の噴水へ向かった。また、チラチラと雪が降り出して来た。
(ここの転送装置は確認する事も出来なかった……。リオ……。今、どうしてる?)
前に繋がった時はノイズが酷く、明らかに何か不具合があると言う感じだった。
(私のパソコン中古で買ったヤツだからなぁ……。もしかして壊れかけてるのかも……。まさかと思うけど壊れたら元の世界に戻れないとかやめてよね……)
自分がここに居るのが『転移』なのか『転生』なのかも分かっていなかったが、よくよく考えたら『パソコンがある』つまりは『死去して処分された訳ではない』とまでは分かった。
(ただ……リオとは時間の流れが違ってた……。私が死んで間がなかったら……パソコンも部屋も、まだ手が付けられてないだけってのも有り得るんだよね……)
自分がもし死んでいたら……と思うと怖いと思う。
(『元の世界に戻ったら骨になってました』ならまだしも『火葬の最中です』は……やっぱ嫌だな……)