113話
ハゼランの街の外壁に近付くとリリの胸は動悸が激しくなっていた。
(何……? 緊張……してる? でも、何か違う気がする……。これは……何なの……?)
「どうかしたのか?」
胸の辺りをギュッと掴んでいるリリを見て、ロディが心配そうな顔で覗き込む。
「あはは。柄にもなく緊張してるのかも」
リリが見上げて答えるとロディはポンポンと背中を叩いて笑う。
「まだ先だぞ? みんなが居るから大丈夫だ」
「そうだね」
真っすぐにハゼランの街を見詰める。モヤでよく見えないが、ゲームでよくあるラスボスが居る感が漂っている。胸に湧き上がる確信。
(アイツは……悪代官面は……あそこに居る……。私には……分かる……)
何と言って良いか分からない胸のざわつき。
(絶対……ブン殴ってやる……。容赦はしないっ‼)
最初から気に入らなかった。嫌悪感しかなかった。『なぜ』と言われたら『女の勘』としか言えないけれど……。
「え? あれ……何?」
リリは唖然として立ち止まった。外壁の向こう。モヤの中に薄っすらと見えたのは日本の城としか思えない建物だった。
「あんな建物……なかったわよ?」
サラがリリに向かって言う。このメンバーの中で一番最近のハゼランを知っているサラが『知らない』のだ。
「ん? あれは……人……か? 兵士……ではないな。武器を手にした市民だぞ」
目の良い竹富が外壁周りに人が居るのを見付けた。
「何で一般人が外界に出てるのよ? しかも武器持って。外界で戦争でも始まるの? ……え?」
リリは気付いた。その武器を手にした一般人がこちらに向かって走り出しているのを。
「アイツ等の標的は俺達ってかっ⁉」
ロディが剣を抜き構える。竹富が身体強化の術を唱え、里道が武器強化の術を唱えた。サラが詠唱を始める。
(な……何で……? 何でNPCとは言え一般人と戦わなきゃなんないのっ⁉)
崎野の手下とは違う。本当の一般人のNPC。主要キャラと言葉を交わす事もない人々が武器を掲げて襲って来ていた。
(戦わなきゃ……。でも……この人達は何も悪い事してないのにっ‼)
リリの勘が里長の仕業だと告げていた。
(アイツ……っ‼ 足止めするにしても一般人を使うとか有り得ないっ‼ 一万回殺しても足りないっ‼)
降り出した雪の中、涙を流しながら戦うリリは時折、里長が居るであろう居城を睨み付けていた。
(絶対にっ‼ 絶対にっ‼ 許さないっ‼ 首を洗って待ってろっ‼)