110話
リリ達は、里道の道具袋に食べ物をたっぷりと詰め込んだ。いつここに戻れるか分からないからだ。
「紀高、これをお前に託す。これだけあればしばらくは保つだろうが、万が一足りなくなったら自分達で何とかする事を考えなくてはならない。意味分かるな?」
「はいっ‼ 分かっています、兄上」
紀高はキリッとした顔で答えた。里道達の会話を聞いていた竹富が紀高の目の前に膝を付いて目線を合わせた。
「良い返事だな、紀高。大人の仲間入りだな。そんな紀高に俺からこれを。大人になった祝いだ」
竹富は自分のクナイを2本手渡した。
「竹富さん。良いのですか? これ、ドラゴン製の……」
「かまわん。短刀があるからな」
竹富は紀高の頭を撫でる。紀高はしっかりとクナイを握り締めて頷いた。
「ありがとうございます」
少し頬を赤らめて竹富を見上げていた。
(あ〜。もしかして紀高は竹富に憧れてる? 私の事を『リリ様』って言う位なんだもんな。そのリリ様の右腕だもんな、竹富は)
里道は弟の様子を見てニッコリと笑った。紀高は日の光にクナイを当ててみる。ドラゴン製の証の虹色の光に目を奪われる。
「ねぇ、サラ」
「なぁに?」
「里道との子供は良い子になりそうね。魔法が使える忍びなんて格好良いし」
サラの頬が少し赤くなる。そして、紀高を見詰める。
「里道の子供が出来たらリリに名付け親になって欲しいわ」
「わ……私ぃ〜っ⁉」
「うん。リリと出会わなかったら里道と出会わなかったって言ったでしょ? 縁結びしてくれたんだから名付け親になって」
美人のサラが色っぽさをプラスしたら最強としか思えなかった。
(いつか……里道とサラの子供を見られたら……なんて無理よね。仕方ない。リオに任せよう)
記憶の共有すれば何の問題もないはず。きっとリオは喜んで名付け親になるだろう。
ニコニコと笑いながらヒソヒソ話しているリリをロディはジッと見詰めていた。
(次期里長……か……。もう里長っぽくね? しっかり光神の里の人々をまとめてるし、ちゃんと考えてる。そんなリリを口説くのってどうだったんだろ……。でもさ、やっぱリリが良いんだよな。リリとなら旅をしても、どこかで暮らしても楽しいだろうって思うんだ)
光神の里の掟がどんなのかは知らない。里長の婿になると言うのがどんな物かも分からない。
(リリの隣は誰にも譲らねぇ)
ロディは柔らかな笑みを浮かべるリリの横顔を堪能していた。