105話
「あ……ありがとう、里道……。じゃなくてっ‼ も……もしかしてっ‼ 人質の人達が、あの吹っ飛んだ場所にいたらっ‼」
「大丈夫よ、リリ」
焦るリリにサラはニッコリと笑って、上空を指差した。
「え……?」
そこには、巨大なシャボン玉のような物がいくつも浮かんでいた。その中には人の姿が見えた。
「もしか……して……」
「そう、人質の人達よ」
「良かった……。人質の人達……無事だった……んだ……」
誰一人知った人が居た訳ではない。会った事のある人が居た訳ではない。それでも『助けたい』と思った里道の弟があのシャボン玉の中に居るのだ。
リリの頬に涙が伝った。ロディと竹富はジッと見ていた。
(助けられた……。里道の弟を……。人を助ける事って……こんなに……こんなに嬉しいんだ……)
フワフワとシャボン玉が降りて来た。地面に着くとパチンと弾け、中から人が出て来る。
「兄上ぇ〜っ‼」
「紀高っ‼」
里道によく似た十歳ぐらいの男の子が駆けて来る。
「里道の子供って、あんな感じなのかなぁ……」
「サラ……まさか……?」
サラがボソリと呟いた内容がリリに衝撃を与える。
「違う、違うって。何となく思っただけだから」
サラは里道と抱き合う弟の姿に、将来里道が父親になった姿を見たのだろう。微笑んだ顔は、今まで見た中で一番綺麗だとリリは思った。
里道は弟の紀高を伴ってリリの傍に来た。リリは、ゆっくりと立ち上がった。
「リリ様、助けに来てくれてありがとう」
「え? あ……うん。無事で良かった。よく頑張って我慢したね」
里道の弟、紀高は真っすぐにリリを見て礼を述べた。
小さな男の子でさえ、リリは次期里長だと認識している。なら、次期里長としてリリがやらなければならないのは光神の里を住みやすく、笑顔の溢れる場所にする事。
(リオ、リオが大切に思ってる人達を守れたよ)
水鏡の向こうに居るリオを思う。
(リオも助けるから。待ってて)
里道は紀高の頭を撫でながら
「紀高。紀高や他の人達がどうやってここに来て、紀高達を拐かした人達の話をリリ……様に出来るか?」
と、言った。
紀高は頷く。それをリリが笑って遮った。
「それより、人質になっていた時はちゃんと食べられなかっただろうし、先に食事にしない?」
「リリ……」
里道の目が潤む。
「ほら、みんなが食べられるように頑張って作るわよ」
リリは道具袋から色々取り出し始めた。