100話
(人が……居ない……?)
飛び上がった壁の上から見回してみても、死体どころか人っ子一人居なかった。人目がないならと堂々と飛び降りた。そして、一番近くにあった家の窓を覗き込んだ。
テーブルの上には湯気のグラフィックがあるシチューとツヤツヤしたロールパン。
(リアルならさっきまで誰か居たってなるんだろうけど、ゲームじゃ分かんないよなぁ……)
リリはゆっくりと一軒ずつ覗き込みながら中央公園へ向かった。
「リリっ‼」
中央公園の手前の通りを曲がった時、竹富に声を掛けられた。用心深い竹富が周囲を気にする事なく大きな声をだしていると言う事は、竹富の来た方向にも人は居なかったのだろう。
「竹富。里道は、まだ?」
「里道は、ロディ達を迎えに行ってもらった。リリの方も……誰も居なかったのか?」
さすがリリの右腕と言われている竹富。言わずとも通じていたようだ。
「うん。誰も居なかった……。人質の居そうな場所もなかったんだよね……」
「そうか……。俺の方は、人は居なかったが一箇所気になる所はあったんだ」
「本当っ⁉」
「先に里道に言うと先走りそうで言わなかったんだ。ロディ達と合流したら行ってみよう」
竹富の的確な判断に感謝をしながら頷く。サラと言う存在が里道を支えているのは分かっていたが、弟の安否が分からないと言う不安はあるのだろう。時折、サラが里道の背に手を当てて小さな声で
「大丈夫。絶対探し出してあげるから。そんな顔しないで」
と、言っていたのを何度か見た。
「そこはどんな感じだったの?」
「やたら大きな屋敷でな……。周囲を確認したら、いくつもの警報装置っぽい物があった」
「警報装置……。怪しいわね……」
ハルシャギクに貴族街のような物はなかったはず。あるとしたらハゼランなのだ。
(ラスボスのいたハゼランじゃなくハルシャギクに大きな屋敷……か。とりあえず調べてみなきゃ)
ロディとサラ、里道と合流したリリは竹富に屋敷の話をするように言った。
「かまわないが……リリは何をしてるんだ?」
竹富に話せと言った後、リリは食事の準備を始めた。
「怪しい屋敷に突撃するのよ? だったら、その準備としてパワーアップカレーでしょ? とびきりの作ってあげるから」
里道は今にも駆け出して行きそうなのを苦笑いを浮かべ立ち止まった。サラも里道の手を握っている。
竹富とロディは顔を見合わせて吹き出していた。
(腹が減っては戦は出来ぬってね)
リリの第六感が何かあると告げていた。