10話
「リリ……」
竹富が小さく呟く。
「リリは自分に厳しく、他人に優しい人物だったぞ。鍛練は欠かさず、老若男女問わず里の人々から慕われていた」
里道が優しい声で教えてくれる。
(リリと私とは 全然 違うんじゃない……? 全部は、はっきりと思い出せないけど、リリみたいに誰からも好かれた人間じゃない……。何で私はリリになったの……? 何で……?)
そして、ふと気付く。
(あれ? 転生って異世界とかゲームキャラとか、人に入り込むって感じだっけ……? そもそも転生って現世の私が死んで生まれ代わるんじゃなった……? じゃあ、私は死んだの……? えっとぉ……。リリってキャラがいて、何らかの原因があって、私が入り込んだ……のよね……? じゃあ……転移……? なの……? あ〜っ‼ ややこしいっ‼)
考えると頭の中がゴチャゴチャして、頭痛までして来る気がした。
(駄目だっ‼ 悩むのヤメっ‼ 私が生きてるなら、元の世界に戻る方法を探すっ‼ 私が死んでんのなら、リリとして生きて行く方法を考えるっ‼)
【もしかしたら 本当の自分は死んでいるのかも知れない】
そう考えると怖いとは思うが、自分が『リリ』としてでも生きているなら、何とか出来るかもと思うと少し元気が出てきた。
ただ『リリ』としての記憶がないと、この先かなり不便な気はする。
体術はバク宙が出来た事から何とかなるかもとは思うが、回復術などはどうなるか不安になる。
(竹富達が言うように光神の里に行って、あるかどうか分からない記憶が戻るなり何なりするとして、術とかが戻らなかったら新しく覚えりゃ良いのよ。うん。よし、そうしよう。お腹減ってるのが悪いのよ。お腹膨れたら何とかなるって思う。ドングリもどきでも、お腹いっぱい食べりゃ元気出るっ‼)
二人から分けてもらったドングリもどきをしっかり噛んで食べる。
ついさっきまで泣きそうな顔をしていた『リリ』と全く違う顔をして バリバリと木の実を食べる『リリ』を見て、竹富と里道も怪訝な顔をする。
(なぜ 『リリ』ではないような気がするのだろう……?)
竹富はマジマジと『リリ』を見詰めた。
(ふむ……。どこから見ても『リリ』には違いないが……。なぜ『リリ』でない気がするのだ……?)
里道も不思議な思いで『リリ』を見詰めた。