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 第一夜 

目を開けると、僕は誰かに手を引かれて走っていた。

誰に手を引かれているのかもわからない。


ただ前にいる人は速すぎて、周りのものが全く見えない。


路地裏のような場所を走っているのだが、隣にあるものがビルの壁かと問われるとはっきりうなずくこともできない。


僕はなぜか目の前の人に


「どこへ行くの?」とも

「なぜこんなに速く走れるの?」とも聞けず。


ただ何も考えずに走っていた。


───────────────────


そうしてしばらく走って行くと、突然前の人が立ち止まった。


夢だからなのか、全く息がきれていない。疲れてもいない。



でも一つ不思議だったのは止まる少し前からだんだんと視界は暗くなっていて、止まったときには布の目隠しが付けられていたことだ。


そして前にいた「人」は、いつしか人ならざるものに変わっていた。



目隠しをしているのになぜそれがわかったのかと問う人のために説明するが、相手と唯一接触していた「手」の感触が明らかに変わったからである。



初めは紛うことなき人間の手であったそれは、ゼリーの上から袋をかぶせたような感触のものに変わっていた。



「着いたよ」



僕の前でまだ手を握っているそいつが、そう呟く。


その声はとても形容し難いくらいに気味が悪かったが、その声に少し懐かしさを覚えてしまう自分が一番怖かった。


例えるなら…そうだな。


おじいちゃんと女の子とカエルとおばちゃんが同じことを同時に言ってるのがボイスチェンジャー通されてガビガビになってる感じ…とでも言えばいいか?


想像もつかないだろうが、とにかく聞いていてあまり心地の良い声ではなかったことだけわかってもらえればいい。



(着いたよ、って言われても…)



視界を奪われるというのはこんなに不安なものか、と改めて思う。


何も見えないからどこに着いたかなんてわからず、周りに何があるのかすらわからなかった。


しかもどうやら僕は浮いているらしいのだ。

考えてみれば、地面の上を走っている感覚もあまりなかった。



持ち前の好奇心が発動してしまい、足を踏み出してみる。



…途端、僕の体は重力を思い出したかのように突然落下した。


そいつは笑って、僕の体をすぐに引き戻した。



「…好奇心があるのはいいけど、そんなことしてたら死ぬよ?笑」



笑っている。


とても軽い言い方なのになぜか死の恐怖を感じて、僕は素直にこくん、と頷いた。



そうするとなぜかそいつは得意げになって、僕の後ろに回ってバックハグのような体勢になった。


そこで初めて知覚したそいつの体。

胴体は男のようで背が高いのに、腕や手は柔らかく女のようだった。

頭にはわずかに触れただけなのに、クレヨンで塗りつぶされた顔 というイメージが頭の中に浮かんだ。


なぜか不思議な安心感があった。



──────────────────────



ようやく目隠しを外され、辺りを見回す。


…何もない。

でも真っ白だ、というとなにか違う気がして。


「何もない」と言うことしかできない。

不思議な空間だった。



「…なにもないよ?」



(あれ…?)


そのとき初めて、僕は自分の声が異様に高いのに気づいた。


よく見てみれば声だけじゃない。体も小さい。


でも、あぁ今僕はこどもなんだ、って妙に腑に落ちた。



それでも何も見えないことに変わりはなくて戸惑っていると、あいつが口を開いた。



「小さいから見えないのかもね。

大きくしてあげる」



「大きくしてあげる」…?


どういうこと、と思っているとそいつが目の前に手を持ってきた。




乳白色の手袋をした透明な手が僕の目を覆う。


…体が瞬時に大きくなるのがわかった。



───────────────────────



ぱっ、と手を離される。


嫌な予感はしていた。



恐る恐る下を見ると、何があったとも形容できないが恐ろしいものが下一面にあった。



言葉にならない叫び。



怖くて、あいつの腕でもいいから縋りたくて。



あいつの腕を握ると、ふわっ…とそいつは消えていった。

まるで最初から落とそうとしていたみたいに。






僕はそのまま落ちていったのに、なぜかもう声が出なかった。





静かに落ちていって









……ぐちゃっ…………









そんな音がした。


存外にそこは暖かかった。






そして、そこで僕の夢は終わった。




















第一夜 向かう先には    終

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