目覚めたら外が大騒ぎ
昨日は異世界人とのトラブルに遭遇し、無事に難を逃れ宿屋で一夜を過ごした俺達兄妹。
朝目覚めると宿屋の外が何だか騒がしかった。
「魔獣だ! 魔獣が現れたぞ!!!」
「冒険者チームは討伐隊を編制しろ! 衛兵部隊は至急詰め所に集合だ!」
魔獣と聞いて不安そうなサクラが俺のそばに寄ってきている。
「お兄ちゃんどうしたのかな?」
「魔獣って言ってもゴブリン・オーク・バーバリアンの事なのか? でも、森とは違うから新手が現れるかもしれないよな」
Tシャツ一枚からタクティカル装備を身につけ、戦えるようにしておく。
一階へ降りて店主に外で何が起きているのか聞きに行ったのだが
「悪いが客人たちでは足手まといになるから、ここで隠れていてくれ」
店主は昔を思い出すかのように古びた装備品を身にまとい討伐チームの所へ向かってしまった。
結局何も教えてもらえず結構緊急事態っぽくてヤバイ感じがするが、敵がゴブリンやオークなら十分戦えるので、サクラと相談し俺達も外の様子を見に行く事に。
「俺達も行こうか」
「私もお兄ちゃんと一緒なら大丈夫だね!」
宿屋を出て街のメインゲートに向かっていくと、昨日は活気のあった商店街やバザー通りが閑散としていてメインゲートは閉じられたままだ。
メインゲート前やバザー通りには冒険者や警備兵達が二百~三百人ほど集まっている。
中心部にはイングリッドさんが兵士達に指示を送り、持ち場に移動中だ。
「イングリッドさんどうしたのですか?」
「なっ!? シオン君達! 君たちはこんな所に来てはいけないよ!! 今は外に恐ろしい魔獣の目撃報告があって詳細を調べている所だ!」
「恐ろしいってどんな魔獣なんですか!」
「ヘルウルフだ! 今はドゥームグローブに生息する魔獣だが、ヘルウルフが外に出てきた報告は今まで一度も無かった、人間が攻撃を加えたりしない限り、ヘルウルフクラスの魔獣が森の外に出るはず無いんだ」
ドゥームグローブが普通の森だった頃もゴブリンやオークは生息していて、森に謎の塔が出現してから魔獣達が強くなり、それと同時に今まで森で生息が報告されていない魔獣が目撃される。
不思議な事に新たな魔獣は人間側が攻撃しない限り森から出る事は無く、奴等は森の中を好み、滅多に森の外に出てくることは無かった。
最初から生息していた魔獣は従来と同じように森の外にも出てくる。
謎の塔が出現前の魔獣なら難度が上がったとしても街の冒険者でも対処可能。
しかし、謎の塔が現れてからの新しい種類の魔獣は対処が困難とされている
今回のヘルウルフは謎の塔が出現後に現れた魔獣なのだ。
「それで数は? 沢山なのですか?」
「今のところ二匹だな、まだ遠くの方でこちらの様子を見ているだけだが、あいつが現れたおかげで外に出られないんだよ」
でも魔獣二匹なら二百人近くいる人達で何とかならないのかと思った。
「沢山の兵士や冒険者が同時に攻撃出来る訳ではないからな、ヘルウルフクラスになると討伐にも沢山の犠牲者が出る可能性もある」
イングリッドさんを説得して防壁に登り、イングリットさんに方向を教えてもらうと、確かに小さな点が2つ動いていた。
俺は双眼鏡でサクラはスコープ越しに2つの点を確認すると
「あれは? ラスターとウインクかな?」
「お兄ちゃん、この距離じゃ良くわからないけど何か似ているね」
双眼鏡越しに黒灰色の毛並み、頭には小さなツノがある狼の姿、この距離では詳細までは良くわからない。
「呼んでみようか?」
「おい! ちょっと待つんだサクラ! この状況じゃ……!」
「ウインク! ラスター!!!」
『ウォーン!!!』
遠くから雄叫びのような声が聞こえ二匹は凄いスピードでこっちに走ってくる。
さっきまで遠方をウロウロしていた魔獣が突然こちらに向けて動き出し冒険者達も大混乱、接近スピードが想定外で迎撃準備が出来てないからだ。
「やっぱりウインクとラスターだよ!!」
軽く流すサクラだが、それはそれでマズイぞ!
兵士や冒険者達は混乱するも戦闘準備中、下手すると討伐されてしまう!
「イングリッドさん! あれは俺達が飼っている犬です! ちょっと連れてくるので攻撃を待って下さい!」
「シオン君! 馬鹿な事を言うな! あれはどうみてもヘルウルフだ!」
「私からもお願いします、イングリッドさん、あの二匹は大切な家族なの!」
イングリッドさんは”ヘルウルフ”だと言い話を聞いてくれない。
実際は”インベイドウルフ”なんだけど、今からそんなことを言っても意味が無い。
滅茶苦茶混乱するイングリッドさんを何とか説得……無理だったので強行突破して、防壁の外に出してもらおうとしたけど止められて、それでも強引にイングリットさんを説得。
死んでも知らないと散々言われたけど、街門を開けてくれなければ街壁から飛び降りると言ったら何とか通用門を開けてくれた。
街防壁を出るとすぐにラスターとウインク達に向け叫ぶ
「ラスター! ウインク! そこで止まれ! 今行くぞ!」
俺とサクラのことを認識したのか『ウォーン』と返事のあと、二匹はその場で停止し、俺達が駆け寄ると尻尾を振って嬉しそうにお座りしていた。
「寂しかったの? ウインク?」
ほーらほらとサクラはウインクをモシャモシャとしていた。
「ドゥームグローブでお留守番の筈だったけど、命令を無視してここまでやってきてしまった理由は何なのだろう」
「昨日、私が宿屋の食堂で絡まれて叫んだからかな?」
まさか、街から森まではすごく遠いから聞こえる筈が無いだろう?
「ラスターとウインクは私が危ないと思ったから来てくれたのかな?」
二匹に問いかけるサクラの姿を見て、二匹は縦にうなずき肯定の意味を返した。
「ありがとうね! ラスター! ウインク!」
『ウォン!!』
とりあえずサクラと二匹には待機してもらい、俺だけ街に戻ってイングリッドさん達を説得しなければならない。
最初は全く信用してもらえなかったが、俺と一緒にイングリッドさん含む警備兵達20人ほどで調査チームを編成すると、俺の後を慎重に付いてくる。
サクラ達が見える距離になると「お兄ちゃん! 大丈夫だった!?」と明るい声が響き、二匹と戯れて遊んでいる様子を見たイングリッドさん達は、気が抜けて地べたに座り込んでしまったのだった。
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