初!異世界料理
目の前に置かれている料理は、パンと何かのシチューだ。
湯気が上がり食欲をそそる香りを発している。
給仕のお姉さんの話では”煮込み肉のシチュー”
スプーンでシチューの具材を確認すると、芋? ニンジン? キノコ? タマネギ? みたいな物に何かの肉で赤い色がかなり強い肉?が入った茶色いシチューだ。
牛肉なら茶色になりそうだけど、かなり赤くどちらかと言えば朱色。
他のテーブルに置かれている料理を見ると追加注文品なのかでっかい骨付き肉があり、これは肉が青紫色だし骨も白じゃなくて青っぽい。
良く言えばカラフルな肉、悪く言えば毒々しい色でなんか心配になってきた。
全体を見ると焼き魚や鳥の丸焼きみたいな料理もあり、イモムシや昆虫は無さそうなので一安心する
ロシア人の母さんに衛生環境の悪い場所に海外旅行へ行く時の常識を教えて貰っていた。
母さんの奨めでこの世界の物を食べる時は整腸剤や母さんが用意した特殊な薬を服用しなさいと言われていたので、食べる前に飲んでおく。
表記がロシア語だけど大丈夫だろう
水は生臭いとか川の臭いがするとか想像していたけど、水差しに入っていた水は普通の物だったので案外大丈夫な気もするが殺菌消毒されていない天然水なので一応注意する。
サクラと二人で具材を見ながら、ゆっくりとスプーンでシチューを口の中にいれた。
「おお! これうまいじゃん!」
「お兄ちゃん、想像よりもおいしくて驚いたよ!」
素材の味を生かしつつ、しっかりと味のついたシチュー部分。
中に入っている何かの赤色の強い肉はホロホロと崩れていく。
残念なのは少しだけ肉の臭みが強い事、これを誤魔化すために色々なハーブ類が使用され下味を強くしているのだと思われる。
シチューにしっかりと味がついているのはこの為なのかな。
母さんのビーフシチューの方が味に慣れている関係でおいしく感じるが、中世時代のようなこの異世界でこんなにおいしいシチューが食べられると思っていなかったから良い感じだ。
おいしい事が分かれば、あとは無言でそのまま口の中へ続けるようにシチューを運ぶ。
でもパンはとても堅い。
フランスパンなんか勝負にならないくらいに堅く、カッチカチだ。
どうやって食べるのかは、周りを見ればすぐに分かる。
引きちぎって、クルトンのような感じでシチューに浸けて柔らかくしたり、ナイフで薄切りにしたりして食べている感じだ。
水分を吸えば食べられる堅さになるので、この辺は好みを調整して各自色々な方法で食べていた。
「おいしかったね!」
「うん、思っていたよりも味がしっかりしていたな」
食事が終ると通りがかりの給仕のお姉さんが食器の回収に訪れる。
「どうだいおいしかっただろ!? 家の看板メニューだからね、これ目当てでウチの店に来る人も大勢居るんだよ!」
サクラがお腹を押さえながらこちらを向くと
「お兄ちゃん、もう少し食べたいかな」
結構ボリュームもあったシチューだが、もう一杯位は食べられそうだ。
「シチューをもう2人前お願いします」
「ありがとね! 今持ってくるよ!」
こうしてシチューの追加注文し料理が到着するのを待つことになる。
料理が来るまでの間、他の冒険者達の装備品の観察を始めた。
彼らは食事中なのにもかかわらず、ナイフ等の小型の武器は常に携帯し、それを使ってさっきのパンや肉を切っている者すらいる。
そしてすぐに取れる範囲に主武器である剣等の武器が置かれている感じ。
普段は鎧等を装備しているのだろうけど、それらは身につけていない。
宿屋の店主もムキムキだったが、冒険者達もシャツがはち切れそうな位に鍛えられた体つき。
もちろん細い人も居るが戦士や剣士ではなく、魔法使いみたいなポジションの人かなと。
女性冒険者はボディラインがきっちりと見えるような軽装の女性が多く、腕周りとかも太いし鍛えられているなと思う。
女性らしいのは給仕の女性達やローブ姿の魔法使いと思われるような女性達。
全体的に言えるが美人や可愛い人が比較的多いようにも感じた。
・・・・
「おおおう、兄ちゃんよ俺達になんか用か? さっきからジロジロ見やがって」
しまった、少し観察しすぎたか!?
俺達のテーブルの方へ20代と思われる若い冒険者二人組が目を細め睨みながら近づいてきたのだ。
二人は刈り上げられた頭髪の薄い部分に部族のようなそり込み模様が入れられ、周りの冒険者とは明らかに違う。
日本で見たら絶対に近づいてはいけないような男達だ。
「おおおう、隣のネェちゃんが可愛いじゃねぇかよ、俺達と飲もうぜ! こっちこいよ!」
「何? 嫌だよ!」
「おいおい連れねぇなぁ、そんな男なんかどうでもいいだろ」
男の一人が嫌がるサクラの手を掴んで立ち上がらせようと引き上げる
「嫌!! 嫌だよ!!! 離してよ!」
俺が止めようとするともう一人が俺の前に立ち邪魔に入る。
だが、抵抗するサクラが男の手を引き離そうと、もう片方の手で払いのけたときに「ポキッ」と小さな音がした。
「ぐはぁ! 痛えぇ!! この女何をしやがった!」
男の手首が変な方向を向いていた。
うずくまる男を横目で見ながら謝罪する
「あんた達を見ていたのは謝るから、妹に手を出さないでくれ!」
「おい! 俺の仲間に何しやがった!」
何が起ったのか理解出来ない男から怒り狂う拳が飛んでくる!
いきなり殴るのか?
でも凄い遅い?
ゴブリンより遅い?
軽く手で掴んで払いのけると、男は床を転げて壁にぶつかり停止。
なぜ払いのけただけで男が簡単に転がる?!
俺も何が起きたのか理解が出来ず混乱していたのだが。
「テめぇら何やってやがる!」
店の奥から騒ぎを聞いた店主の怒り狂う声が店内に響き渡った
手首があさっての方向を向いた男は手首を押さえながら店主に謝罪を始める。
「いやオヤジさん! これは違うんですよ!」
「違うも何もねぇ! この客人はイングの知り合いだ! お前らが喧嘩を吹っかけたのだろ!」
「だから違うんだって、俺達はその女と酒が飲みたかっただけなんだよ」
店主は俺の後に隠れているサクラを見ると
「あの様子でそんな訳無いだろ! お前らが馬鹿なのは昔からだが、バカもバカなりにしねぇと店から放り出すぞ!」
「へっへい! すみません」
急に大人しくなった二人を見て、店主は「しょうがねぇなぁ」と呟きながらプラプラの手首を元に戻してやる。
どうやら関節が外れていたみたい。
そして手首が治った男は床に転がっている仲間を引き起こし早々に姿を消した。
「客人達強いんだな、面倒なのに絡まれて迷惑だっただろう、あいつらこの辺じゃ有名なヤンチャ坊主だったのが冒険者になっていい気になっててな」
続けて給仕の女性が追加注文したシチューを持ってくると、その様子をみた店主は
「これは迷惑料だな、あいつらから金を貰うからお客人達は気にせずに飲み食いしてくれ」
店主は軽快に俺達に話を伝えると、場を納めて再び厨房へと帰っていった。
「強い店主だったね!昔は冒険者だったのかな?」
「さっきみたいな荒くれ者を相手にするから凄い鍛えているだけかもな」
「そうかもね!」
「でも気にせず飲み食いしてくれって言われてもなぁ」
「私はお酒飲めないよ!」
「俺もこのシチューを食えば腹一杯かな、酒も入らないよ」
こうしてトラブルもあったが異世界料理も食べる事ができて、おいしいことが判明したので異世界ライフの楽しみが一つ増えたのだった。
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