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 それからアルベルテュスは宣言どおりに、宮廷錬金術師になるための勉強を始めた。師匠であるローシェも、お手本は見せられないが知識面で弟子をサポート。

 半年後には見事、アルベルテュスは宮廷錬金術師の試験に合格した。


 勤務地である王都で生活するため、二人は王都に小さな部屋を借りた。

「手狭で、申し訳ありません」と謝ったアルベルテュスだが、それから着実に功績をあげた彼は、一年後には男爵の爵位を授かり、小さいながらも邸宅を構える。

 使用人も雇えるようになり、二人の暮らしは格段に楽になった。


 宮廷錬金術師として功績をあげ続ける弟子とともに、ローシェもそれなりに成長を遂げていた。

 呪いを受けてから一年後には、錬金術にも変化が――


 ぬいぐるみしか作れなかったのが、アルベルテュスのラバーストラップ<木製>を作れるようになり。

 さらにその一年後には、アルベルテュスのアクリルスタンド<ガラス製>を作れるようになった。


 相変わらず煩悩に満ちた脳内だったので、解呪薬は作れなかったが、それでも三歳児から成長しない呪いでは無かったことに、ローシェは安堵する。


 身長もすくすくと成長したが、アルベルテュスとの身長差はあまり埋まっていなかった。なぜなら彼も成長期であり、十八歳になる頃にはすらりと背の高いイケメンに変貌を遂げていたのだ。


 成人を迎えたアルベルテュスは、将来有望な青年として社交界では有名な存在となる。

 毎日のように夜会やお茶会の招待状が届き、貴族令嬢達からの贈り物やラブレターなども絶えることがなかった。

 本人は迷惑そうであったが、師匠であるローシェとしては嬉しい限りで。同時に、自分の存在が彼の将来にとって負担になっていると思い始める。


 ローシェはアルベルテュスの遠い親戚として扱われていたが、こぶつきの結婚では相手のご令嬢も嫌がるだろう。

 弟子の幸せを願えばこそ、ローシェはここに留まるべきではないと感じていた。


 そして呪いを受けてから二年と少し過ぎた頃。ローシェはついに、行動に起こすことにした。




「ローシェ……。なにをなさっているのですか?」


 夜遅く帰ってきたアルベルテュスは、ローシェの寝顔でも見に来たのだろうか。ローシェの部屋を開けるなり、顔を曇らせた。

 今ごろはぐっすりと眠っているであろうローシェが、旅行鞄を広げて、どのぬいぐるみを入れようかと思案していたのだから。


「アーくんおかえり。きょうは侯爵令嬢の、おたんじょうびパーティーだったよね。エスコートはうまくいった?」

「そんなことは、どうでもいいです。ローシェ、なぜ旅の準備をしているのですか」

「えっと……。これは旅行ごっこだよ?」

「ローシェ。正直に話してください」


 幼児化したローシェだが、ごっこ遊びなどしないことは、アルベルテュスもよく知っていた。

 ローシェの前に座り込んだアルベルテュスは、じっと幼い師匠を見つめる。

 こんな時は、本当に彼が保護者のようだ。ローシェは、耐えかねて口を開いた。


「アーくんもそろそろ、結婚をかんがえなきゃいけないもん。ローシェは家にかえるよ。アーくんのおかげで、ここまで育ててもらえたし、もうひとりでだいじょうぶ!」


 五歳児では仕事にはありつけないが、家に帰れば十年くらいは余裕で暮らせるだけの資金がある。幸い、ローシェの事情を知った錬金術師仲間とも王都で再会できたので、少しは手助けしてもらえる予定だ。


「いままで育ててくれて、ありがとう」


 ぺこりと頭を下げたローシェは、すぐにアルベルテュスに背を向けて荷物をまとめる続きを始めた。

 すると突然、がたっと両膝を床につけたアルベルテュスに身体を引き寄せられる。


「どこへも行かないでくださいローシェ!」

「アーくん……。ローシェの心配をしてくれるなら、だいじょうぶだよ?」

「ローシェの心配ではありません。僕が嫌なんです」


(あれ……。もしかして、師匠離れしたくないのかな?)


 この二年の間に、弟子が自分を嫌ってはいなかったと、ローシェは知ることができた。冷たい弟子ではあるが、冷たいなりに師弟関係を大切にしてくれていたのだ。


 別れを惜しんでくれる弟子が嬉しくて、ローシェは振り返って弟子の頭をなでた。


「ふふ。ひきとめてくれるのはうれしいけど、アーくんはもう一人前の錬金術師だよ。ローシェの役目はもうおわり」

「ローシェの役目はまだ、終わっていませんよ」

「……どうして?」


 もう彼は、宮廷錬金術師として立派に成長した。教えようと思えばまだまだ教えることはあるけれど、これからの彼は自分で成長する段階だ。


「僕がローシェの家を飛び出した理由に、まだ気が付いてくれないのですか」

「ローシェのことが嫌い……あれ?」


 それはローシェの勘違いだったと、この二年間で気づかされた。ならば弟子は、なぜ家を出て行ったのか。


「……僕は、いつまでもローシェに、錬金術師として認めてもらえないのが嫌だったんです」


(えっ……。そうだったの?)


 ローシェは弟子を認めていなかったわけではないが、厳しく育てていたので、まだまだ成長の余地があると思っていたのだ。


「だから錬金術師として自立できることを、見せたかったんです。――成人したら、迎えに行くつもりでした。なのにローシェは、こんなに小さくなって……」


 弟子は何を言っているのだろう。ローシェは意味がわからなくて、首をかしげた。


「迎えにいくって?」

「ですから……」


 急に顔を赤くしたアルベルテュスは、ローシェから視線をそらして呟く。


「僕は他の誰とも結婚しないので、ローシェはずっとここにいてください。ローシェが大人になるか、解呪薬を作れるようになるまで待ちますから……」


(あ……あれ?)


 ここまで聞いたローシェはやっと、弟子が何を言わんとしているのか理解した。


「アーくんもしかして、ローシェと結婚したいの?」


 五歳児脳も割とストレートである。そのまま聞き返すと、アルベルテュスは困ったような顔でローシェを見つめた。


「……ローシェも、僕のことが好きなのでしょう? 僕に関するものしか作れないということは、頭の中が僕のことで一杯なんですよね」


 弟子の言うとおり、ローシェの頭の中は弟子で埋め尽くされている。

 彼が望んでいる『好き』とは少し意味合いがことなるが、五歳児のローシェにとっては些細なことに感じられた。


「うん。ローシェはずっとアーくんが大好きだよ」

「嬉しいです。僕はこれからも、待ち続けて良いですか?」


 いつもは表情に乏しい彼なのに、こんな時に限って愛おしそうな笑みを浮かべるから心臓に悪い。

 これまで考えてもみなかった、推しとの結婚。

 そんな嬉しそうに約束を持ちかけられてしまったら、すぐにでも望みを叶えてあげたい。

 いや、ローシェ自身も待ち遠しい。久しぶりに元の身体が恋しくなる。


「ローシェ、はやく大人にもどりたい……」

「焦る必要はありません。僕の気持ちはこれからも変わりませんし、ローシェより年上であるこの状況も、意外と悪くないです」

「アーくんは、とししたのローシェが好きなの?」

「僕を大人として見てくださるのでしたら、どちらでも構いません。元の姿へ戻るかどうかは、ローシェが決めてください」


 年上か年下。推しの好みはどちらなのか。これはファンタジー小説なので、その辺のことはローシェもよく知らない。

 まずは、その辺りのリサーチから、始める必要がありそうだ。


 けれど今はなによりも、お互いの気持ちを素直に伝え合えたことが何よりも嬉しい。自分たちはいつも近くにいながらも、お互いに心の距離があったから。

 ローシェの身体がいつもとに戻れるのかはさておき、これからは今までの分も含めて愛情をたっぷりと推しに表現していきたい。これからは師弟関係ではなく、愛し合う家族となるから。


 それにはやはり、大きくなりたい。五歳のこの身体はあまりにも小さすぎる。

 アルベルテュス今までどのような気持ちを抱えてローシェと暮らしてきたのか。ローシェは少しだけ分かった気がした。



お読みくださり、ありがとうございました!

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