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 お風呂から上がったローシェは、乾いたタオルでグルグル巻きにされ、髪の毛も乾かしてもらった。ローシェを嫌っているわりには丁寧に世話してくれるところも、真面目な彼ゆえなのか。


「着替えを用意しますので、少々お待ちください」


 リビングを出て行ったアルベルテュスは、しばらくしてからローシェに着せる着替えを持って戻ってきた。自分の服を貸すのかと思えば、彼が広げて見せたのはローシェのサイズにぴったりのワンピースだった。


「アーくん、それ……」

「錬金術で作りました。僕の服を材料にしたので、色がお好みではないでしょうが」


 シャツでも材料にしたのか、真っ白なワンピースだ。幼女に似合いそうなフリルやリボンがあしらわれている。

 心が二十八歳のローシェとしては気恥ずかしさがあるが、実際に身にまとった姿は正に、あつらえたかのようによく似合っていた。


「サイズもぴったりだし、ほうせい(縫製)もきれい……」


 錬金術で洋服を作ることは、意外と難しい。細部までしっかりとイメージしなければならないし、サイズにも配慮しなければならない。

 より正確さを求めるならば魔法陣の改良が必要だが、今の短時間でそのようなことまでしていたとは思えない。

 彼は錬金術師としての技術と勘によって、このワンピースを完成させたのだ。


「ありがとう、アーくん! とってもじょうずに、できたね!」


 ソファの上に立ち上がったローシェは、手招きをしてアルベルテュスを呼び寄せる。そして、顔を近づけてきた彼の頭を、なでなでした。

 今まで弟子に対してこのような褒め方はしたことがないが、脳内が単純化しているローシェは、真っ先になでることを思いついたのだ。


「……師匠の弟子ですから。これくらいできて、当たり前です」


 大人しくなでられたアルベルテュスは、少し照れたように視線をそらした。こんな推しが見られるなら、もう少し甘やかして育てても良かったかなと思いながら、ローシェは微笑んだ。




 しばらくして心も身体も温まったローシェは、アルベルテュスが夕食の準備をしている間に眠くなってしまった。

 お腹もすいてはいるが、疲れたせいで眠気が勝っているようだ。ソファの上で首をこくりこくりとさせながら、眠気と戦い始めた。


「師匠。ベッドへお連れしますね」

「まって……アーくん……。おはなしがある……の」


 重たいまぶたを何とか開けつつ、ローシェはこの幼女化の呪いについて話そうとしたが、とうとう力尽きて眠ってしまった。


「ここへ来た理由なんて、話さなくて結構ですよ」





 翌朝。


「わぁ! くまさんパンケーキだぁ!」


 テーブルに置かれたパンケーキを、椅子の上によじ登って確認したローシェは歓声を上げた。

 ふんわりと焼かれたクマ型のパンケーキの上には、蜂蜜とバターがとろりと美味しそうに垂れている。


 パンケーキだけではない。子供用フォークとナイフ、スープを飲むためのスプーンの柄にまで、クマの形があしらわれている。

 まるでお子様ランチのようなので、ローシェはくりくりの瞳を輝かせた。


「アーくん、クマさんあつめてるの?」

「そんなはず、ないでしょう。カトラリーとパンケーキの金型は、錬金術で作りました」

「も……もしかして、ローシェのために?」

「僕の持ち物では、何もかも大きすぎますから」


 エプロンを外したアルベルテュスは、ローシェを抱え上げると、椅子に座ってからローシェを膝の上に乗せた。こうしなければローシェにはテーブルが高すぎる。


「…………」


 ローシェはフォークを握りしめながら、じっとパンケーキを見つめた。

 弟子の言うとおりこの家にあるものは、三歳児のローシェには大きすぎるものばかり。それなのにこの家に来てから、なに不自由なく過ごさせてもらっている。

 弟子はローシェを、嫌っているはずなのに。


「どうしたんですか、師匠。早く食べなければ、冷めますよ」


 顔を覗き込んできたアルベルテュスを、ローシェは動揺しながら見つめた。


「あのね……。アーくんにまだ、なにもはなしてない……」

「その身体についてですか? 大体は想像がつきます。また僕のお節介を焼いて、あの悪魔と対決でもしたのでしょう?」

「う……うん。でも、こんかいはちゃんと、ふういんしたから!」

「……師匠が危険な目に遭わずとも、僕一人で対処できたのですが」


 逃げ出すほどローシェを嫌っていた弟子としては、助けられることすら迷惑だったようだ。ローシェはしょんぼりと項垂れる。


「よけいなことして、ごめんなさい。これたべたら、でていくね……」

「その身体で、師匠の家まで帰れるはずがないでしょう」

「で……でも、これいじょうは、めいわくをかけられないし……」


 これ以上、推しに嫌われたら悲しすぎる。三歳児の涙腺の緩さを必死にこらえていると、アルベルテュスは大きくため息をついた。


「迷惑ではないですから、おとなしくここにいてください。そのほうが元の身体に戻る方法も、見つけやすいはずです」

「ほっほんとうに? ここにいても、いいの?」


 弟子が受け入れてくれたことに驚いたローシェは、目を丸くしながらアルベルテュスを見上げた。


「僕は恩知らずではありません。師匠が僕を育ててくれた分くらいは、きっちりとお返しします」

「ありがとう、アーくん! じつはもう、のろいをとくほうほうは、かんがえたの! おくすりをつくったら、すぐにでていくから!」


 当面の不安が消えたローシェはにっこりと微笑んでから、パンケーキを夢中で食べ始めた。

 その後ろで弟子が、不満気に頬を膨らませているなど露知らず。

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◆作者ページ◆

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