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帰りの電車

作者: のーと

物語というより比喩で遊びました。

下手でわかりにくいと思いますが楽しんでもらえたら嬉しいです

 5階から道路を眺める。

 地上からでは見えないトラックの荷台が見える。車は中古車だろうとプリフスだろうと5階からは同じだ。シルバー、白、黒色の車が多い中で、明るい暖色の車は目立つ。

 子どものころの車道の認識はただの車の通り道だったが、車の免許を取得してから大きく変わった。車を運転するならば車道は冷たい血管で、車は排気ガスを垂れ流す赤血球だろう。車を運転しないなら車道はファッションショーのランウェイだ。赤、黄、青色のスポットライトに従い、車は持ち主の懐事情の見せびらかしでしかない。貧乏人は車を買えない。やっと手を伸ばして中古の軽自動車だ。金持ちはブーンという騒音ではなくウィーンという走行音でランウェイを進む。


 今日はいつぶりかの定時退社だ。面倒な付き合いも無さそうなので足早に駅に向かった。

 電車の中は学生からスーツ姿のサラリーマンと年齢層は広かった。

 頭の中は圧縮袋で圧縮されていた記憶、知識がストレスという空気を吸って、今にも飛び出そうだ。頭蓋骨という名の押し入れを開けて、今すぐに全てを引っ張り出してほしい。

 水饅頭のようにぷるぷるでi7以上の高性能の頭脳と今の私の飲み終えた牛乳パックみたいな頭脳を交換する。もちろん過去の嫌なことは削除して残したい記憶や必要なものはバックアップして復元しておいてほしい。

 牛乳パックみたいな脳は熱が冷めたらフウタの博物館にでも寄贈しておく。無理だったらたぬきちに押しつける。

 くだらない想像をしていたら電車のドアが閉まり動き始めた。

 辺りを見渡してみた。全員が自分のスマホか本に注目している。私だけがただ突っ立ている。

 この場で私が馬鹿みたいに両手でピースをしても誰も気づかないだろう。疲れで思考回路が変なのか、実行してみようと迷っていたとき、電車がトンネルに入った。窓ガラスに車内が反射される。つまり誰も見ていないとはいえ窓ガラスが鏡になり、両手でピースをしたら誰かに気づかれる可能性が増えたということになる。だからピースは心の中で実行した。


 電車は最初の停車駅に停車した。駅のホームを見るとたくさんの広告がある。大学、専門学校、病院、スポーツジム、運送会社。私の真正面にある広告は皮膚科の病院だった。

 ――ソレガシ皮膚科

 病院名が皮膚科なのに美容皮膚科、内科、消化器内科、整形外科、リハビリテーション科と連なっている。自動販売機程度の長方形の看板からはどんな病院かわからないが、大学病院のような大きい病院ではなさそうだ。病院のロゴが気になる。なぜ天秤のなのだろうか。院長が司法試験合格者とか?患者と平等に接することを意味しているのか?よくわからない。そういえば昔おばあちゃんが言っていた。

「〇〇科□□□科って、いっぱい名乗ってるとこはろくでもない病院だ。とにかく人集めて金を取る。大したこともないのに検査しましょう、検査しましょうって金を取る。絶対行っちゃいかんよ」

 年寄りの言うことは謎の説得力がある。このソレガシ皮膚科も駄目な病院なのだろう。

 ドアが閉まり電車が動きだす。


 ――優先席付近では、混雑時には携帯電話の電源をお切りください。

 オレンジ色の文字で書かれている。はたしてどれだけの人がこの言葉を守っているだろう。混雑時でなければ電源を切らなくてよいという意味にもとれる。

 降車駅に着いた。ドアが開き、ぞろぞろと降りる人の波に身を任せる。この駅は田舎ではあるものの、利用客は多い。

 私は波から脱出して空いているベンチに荷物を置いた。鞄から緑茶のペットボトルを取り出す。残りが少なかったため飲み干した。横に視線をやると電車の時刻表があった。時刻表といってもQRコードだ。

 私は荷物と空になったペットボトルを持って再び歩き出す。改札へ向かう階段が人間で埋め尽くされている。冬服はどうしても暗い色が多い。

 最後尾にいた私は足を止めた。人々の様子をぼんやり見つめる。ペットボトルを持つ右手をまっすぐ前に伸ばす。

 階段を上る人々を背景に、空になったペットボトルの緑色のラベルと緑色のキャップがとても映えて見えた。

 勉学や労働を終えた生きた人間よりゴミのペットボトルが美しかった。



 

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