闇御津羽天弥媛神 (1.30挿話)
投稿するのをすっかり忘れていました。
時系列的には、"心境の変化?!"アマネの名前が付けられた辺りの独白的なお話です。
私は、忌み子。
私の一番古い記憶は……
血だらけになった母の上に立ち尽くし、大人達の視線に晒されていた事。
畏怖、嫌悪、侮蔑、憎悪――負の感情が果てしなく渦巻く中――
私は世に受け容れられない存在なのだ……という事だけを、痛烈に感じさせられました。
今にも生命の灯火が消えてしまいそうな母の上で、私は……絶望を知りました。
母は、私が小さな小屋に押し込まれて直ぐ、亡くなったそうです。私は、母には、あの日以来、会ってはいません。言葉も、交わす事はありませんでした。
あの地に住まう大人達には、目の敵にされました。
何故――殺され無かったのか、私には分かりません。
ですが、来る日も来る日も、蹴られ、叩かれ、石を投げ付けられ……
休みなく増え続ける傷を癒す時間すら、ありませんでした。
人目に付くのは恐ろしく、動ける範囲で、隠れて過ごしていました。然し、どれだけ隠れていても、小屋は狭く、引き摺り出されてしまう事も、しばしばでした。
どれくらいの時を、其の様に過ごしたのか、私には分かりません。
ある日突然、火神様に拾われ、火の山へ行く事になりました。
そして――火神様は、私に
「鬼族の娘よ。名はあるか?」
と、問われました。
名。特定の個人を表すもの。私は、忌み子と呼ばれてはいましたが、それが名なのでしょうか。
……恐らくは、違うのでしょう。
「……ありません。」
そう、答えました。
「そうか。我は、名を与えてやる事は出来ぬ。
が、代わりにこれをやろう。」
火神様は、刀を二振り、差し出されました。
私の髪の様に、黒い刀でした。
そして、その後、それを操る剣豪達の記憶をお与え下さいました。
「……何故ですか。」
火神様が何故、この様なものを下さるのか、私には分かりませんでした。
「何故、か。勿論、備えである。
励めよ!かっはっはー!」
火神様は、備えと仰いました。
これらを用いて、お役に立てという事なのでしょう。
私如きが、神族の御方のお役に立てる事などあるのでしょうか……。
ですが、其の様に申し付けられましたので、可能な限り努めると致しましょう。
あのまま島にいるよりは、遥にいいのでしょうから。
それ以来、火神様からお声が掛かる時以外は、修行に明け暮れました。
幾ら"剣豪達の記憶"を頂いたとはいえ、記憶通りに身体を動かすという事は、容易ではありませんでした。
想い描く通りに動ける様になるまで、随分と時間を要した様に思います。
其の様な日々を、どれ程重ねたのでしょうか。
火神様からのお声掛けは徐々に増し、そして、その依頼内容も難しい物になっていきました。
採掘の護衛、化物の討伐、反逆者の洗い出しの為の潜入や、発見時の始末等……多岐に渡りました。
随分と其の様な時を過ごし、傷にも痛みにも、慣れてしまいました。
ですが、あの日以来……。私の中に、今までとは違う気持ちが……芽生えてしまっていたようでした。
それは、いつもの様に化物討伐を終えて、暫しの間、傷を癒す休養を頂いていた折り。
火神様からお呼び立てが掛かりました。
身支度を整えて、火神様の元へ向かいました。
「刀鬼よ。」
「……はい。」
「我からの、最後の命を与える。」
「最後……ですか。」
火神様は、最後……と仰いました。
遂に私にも、冥界への道が開けてしまったという事でしょうか。
それとも、放逐……お役に立てなかったという事でしょうか。
あれから随分生き長らえてしまいました。
それも良いのかも知れませんね。
「そうだ。我に、新たな名"グエン・オージン"を与えし若き神に仕え、支えよ。」
私の想像とは少し違う様でした。
若き……神。その御方に、お仕えせよ、と。
ですが、これもまた、体の良い厄介払いなのかも知れませんね。
どの道、私に価値等は有りません。拾われた物が、人手に渡る。其れだけの事。
「かしこまりました。その御方は、どちらに。」
「今は、我に名付けた事で、神力が枯渇した様でな。眠っておる。」
その後、火神様の指示通り、新しい主の眠る間に赴きました。
――コンコンコン
ノックを致しましたが、やはりお話の通り、神力枯渇で眠って居られるのでしょう。物音一つありません。
「失礼致します。」
部屋に入ると、確かに寝台には、どなたかが寝かされていました。
失礼かとは思いましたが、御世話も言付かっております。
そのご尊顔を、拝見致しました。
この御方が、新しい主……
若い、とは聞いておりましたが、まさか……ここまでとは思いませんでした。
ふわふわとした亜麻色の髪に、幼い顔付き。そして、小さな手足。
私も、小さな部類かとは思いますが……
この御方は……
お仕えするというのも、この御方の全てを支えよという事でした。
私に能うのでしょうか……。
勿論、全身全霊、私の総てを懸けて、お護り致しますが。
いえ、それも、この御方が、私を必要として下さるならば……ですが……。
其の時の事は、完全に杞憂でした。
その2日後に御目覚めになられたご主人様は、神族とは思えないくらいに、とても気さくな御方でした。
こんな私に、お褒めの言葉を下さり、気に掛けて下さいます。
御自身の身を削り、私の様な者に、神名を与えて下さると迄仰いました。恐れ多い事です。
私は、御恩に報いなければなりません。
常々、其の様に思っていたのですが……
大猫族襲来の折り、私は……ご主人様を護りきる事が出来ませんでした。
力不足……。
自分の無力を、これ程痛感した事は、有りませんでした。
お護りするとの誓いを、違えてしまいました。
ご主人様が御目覚めになられる迄、毎日葛藤しました。
神名を授かれば、今よりは強くなれます。
ですが、ご主人様には御負担を強いる事になります。
其れは、とても恐れ多い事……。
毎日、ご主人様の御眠りになられている神狐の間へと、ご尊顔を拝見しに伺いました。
フウカ様や、ルビィ様も、毎日通われておりました。
そうして一月程が過ぎ、ご主人様が御目覚めになられ……
私に、「ありがとうね」と、仰いました。
ちゃんと護ってくれたと……
そのお言葉を頂き、私は決心しました。
今後必ずや、ご主人様をお護りすると。二度とこの様な失態は犯すまいと。
そして、ご主人様より、闇御津羽天弥媛神という、身に余る神名を授かりました。
更に、刀までをも神具にして頂きました。
どれだけの御恩を頂けるのでしょうか。
私の総ては、ご主人様の為に。
片時も離れず、お仕えし尽くす。それこそが、ご主人様に報いる為の、唯一無二の方法なのですから。
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