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神世界転生譚:蛇足譚  作者: Resetter
7/10

1.45.5 ハヌマとクウ

本編と迷いましたが、こちらにします。


テイルヘイムの大陸は、二つ。

北大陸、そして南大陸だ。


南北の大陸は、赤道より少し南の半島状地を境に、海峡を挟んで分かれている。


南大陸の玄関口、マウラ山脈。

南大陸の北部海岸線を塞ぐ様に聳える、天然の防護壁。


その南部一帯を縄張りにしている大猿族は、低地を好む者と、高地を好む者と、分かれてはいるが、概ね平和に暮らしていた。


――筈だった。


「ハヌマー! 大変だッキ! 大変だッキ!」


険しい山肌をものともせず、大声を上げながら駆けていく、鮮やかな藍色の大猿族。

その容姿は、大きな狒々(ひひ)のようだ。


どうやら火急の報せの様子で、鬼気迫る形相をしている。


「クウ……。どうしたッキ。」


大きな岩の上で瞑想をしていた、ハヌマと呼ばれた大猿族は、薄く眼を開けて問う。


ハヌマも大きな狒々のようで、金地に白の毛並みをしている。


「ハヌマ! 大変なんだッキ! 低地の……族長一族が!

大馬族を攻めるとか言ってたッキ!」


「なに?! どういう事ッキ?! 大馬族は同盟相手のはずッキ!」


「それが……あー……オラよく知らんッキ!」


クウには、正確な状況把握は、全く出来ていなかった。

衝撃的な話を聞きつけ、反射的に走ってきたのだった。


「そうか……。ならば、確かめに行くッキ! その話が本当なら、確かに大変な事だッキ!」


ハヌマは立ち上がり、颯爽と駆け出した。

それはまるで斜面を滑空するかのようだった。


「ちょ……! ハヌマー! 速いッキ!」


クウもハヌマの後に続き、再び低地へと向かった。


――


マウラ山脈の低地は、低木が中心の森林が広がっている。


その様相は熱帯雨林に酷似しているが、気候に関してはその限りではない。


大猿族低地の民は、その森の中にいくつもの村を作り生活していた。


ハヌマとクウが向かった、大猿族族長の住む村は、高地と低地の中継地点にある。


「族長ー! 族長は居るッキか!」


クウから話を聞いて、凄まじい速さで山を下りたハヌマは、瞬く間に族長の村に着いた。


「……ハヌマかッホ」


村の入口は二箇所あり、山側と平地側にそれぞれ門番が配置されている。


低地の民は、大猩々の様に大柄な者が多いが、門番などの仕事は、その者達の役割だった。


この門番も、正に大猩々といった堂々たる体躯を誇っていた。


「ガイラ! 族長はどこッキか! 聞きたい事があるんだッキ!」


「聞きたい事……? ああ……、大馬族の事かッホ?」


「そうだッキ!」


「ウォッホッホッ! 耳が早いッホな! さすが、大猿族一の戦士ッホ。」


「そんな事はどうでもいいッキ! 族長はどこだッキ!」


ハヌマは、のらりくらりと躱すようなガイラに、苛ついたように食ってかかる。


「……族長なら出掛けたッホ。多分もうすぐ戻るッホ。」


ガイラは、如何にも面倒臭そうに答えた。


――


大猿族族長が住む、森の中の村。


柵で囲われたその村は、凡そ50軒ほどの簡素な木造建築が建てられている。


村の中央に、族長宅があり、その前には広場がある。


この広場は、集会や宴会などに利用されているものだ。

大柄な大猿族でも、200名ほどをゆうに収める事が出来る。


ハヌマは、その広場で族長を待っていた。


「ハヌマー! 速すぎるッキ〜。」


遅れる事数十分、クウが追い付いてきた。


「クウ……。族長は何処かへ行ったらしいッキ。

オラ、ここで待つッキよ。」


そこに一人の大猿族の男が、(あざけ)るように声を掛けた。


「おうおう! ハヌマ様じゃねぇかッホ! こんな低地で何してんだッホ。さっさと帰って、修行とやらしなくていいんだッホ?」


「ガンホ……! おめェら、本当に大馬族を攻めんだッキか?!」


ハヌマは、目を鋭くしながら問い返した。


「ウォッホッホッホッ……。今、族長が他の村に話しに行ってるッホ! 高地の奴らは役にも立たねぇから引っ込んでろッホ!」


その言葉に怒りを露にしたのは、クウだった。


「くっ……! ガンホ……! おめェ、ハヌマが本気出したらおめェなんて……!」


「クウ。やめるッキ。こんな奴に言っても無駄ッキ。」


「ウォッホッホッ! やっぱり腰抜け野郎共ッホ!

ウォッホッホッホッ!」


高笑いをしながら、ガンホは去っていく。

クウは、その背中を恨めしげに睨み付けていた。


「ハヌマ! なんであんな奴に好き勝手言わせとくッキか?! ハヌマなら余裕で勝てるじゃないッキか!」


クウは怒りが収まらず、その矛先をハヌマに向けた。


だが、


「オラ達が争っても仕方ないッキ。オラ達は、争いを止めに来たんだッキ。」


と、ハヌマは至って冷静だった。


――


「ハヌマが来とるッホか。」


一際大柄な、銀の毛に背を被われた大猩々。

大猿族族長エンクである。


「族長! ……と、誰だッキ?」


族長の横には、見慣れない……不気味な仮面を着けた

怪しげな人物が居た。


「あはは。ボクかい? ん〜……そうだネ。ま、神様ってトコかな? あはははは!」


ヘラヘラとした不気味な男の醸し出す雰囲気に、ハヌマは背筋の凍る思いがした。


気付けば、額からも冷や汗が流れ落ちている。


根源的恐怖。


ハヌマは何か言いたいのだが、まるで時が止まったかのように、身動きどころか、声すら出せない。


「あはは。どうしちゃったかナ? 固まっちゃって。

ま、いいサ。ボクの用事は済んだからネ。次に行くとしようかナー。あはははは! じゃネ!」


怪しげな男は、一方的に喋ると、ふいっと何処かへ去っていった。


「ハヌマ……! どうしたッキ?! 大丈夫ッキ?!」


ハヌマを心配するクウも、本能的恐怖が伝播したのか、その表情は硬い。


「あ、ああ……。アイツは、何なんだッキ……。

アレは……恐ろしいヤツだッキ……。

族長! どういう事なんだッキ?! 大馬族を攻めるって本気なんだッキか?!

それに、さっきのアイツは誰なんだッキ!」


ハヌマは、エンクを問い詰めた。


が、エンクからはまともな返答が返る事は無かった。


「ハヌマ。お前に答える必要は無いッホ。」


「くっ……! 何の為の戦いなんだッキ! せっかく結べた同盟を! 台無しにするつもりッキか! 竜族が来たらどうするつもりなんだッキ!」


「ふん……。逆らうつもりかッホ。

皆の者! ハヌマとクウが反旗を翻したッホ!!

捕えろッホ!!」


エンクの声に、低地の民は続々と集まってくる。


その手には、棍棒や木槍、石が握られていた。


「……なっ!!

クウ! 逃げるッキよ!」


「分かったッキ!!」


ハヌマは、クウを先に逃がし、自分は殿をつとめる腹積もりだ。


素早く山脈の斜面にまで辿り着く事が叶えば、何とか逃げ切れる筈。


だが、100を超える数があっという間に集まり、ハヌマの背後から迫り来る。


投石が掠める中、スピードを上げる事は出来ない。


「「「捕まえろッホー!!! 反逆者だッホー!!!」」」


何かに取り憑かれたかの様に、石を投げ、槍を投げ、棒を振り回し襲い来る、大猩々達。


だが、ハヌマにしてみれば、同胞なのだ。

まともに戦うわけにもいかなかった。


ハヌマは、素早く樹上に跳び乗ると、そのまま跳び移りながら、山へと向かう。


「くっ……! なんなんだッキ……! 皆おかしいッキ……!

さっきの、怪しいヤツが……なんかしたッキか……?」


「あの野郎、木に登ったッホ!!」

「「「落とせッホー!!!」」」


まるで横殴りの雨の様に、石の礫が降り注いだ。


――ゴッ!!

鈍い音が、ハヌマの脳内に響く。


「がっ……!」


――ドンッ!!


拳大の石が後頭部を直撃し、ハヌマは地上に落とされた。


脳震盪を起こしたようで、何とか立ち上がったものの、その足取りは、フラフラとしている。


「「「落ちたッホー!! 捕まえろッホー!!」」」


「くっ……! マズイッキ……! 仕方ないッキ……!!」


ハヌマは、大きく息を吸い込んだ。


「神力解放……巨大化!!!」


大猿族最強と(うた)われる所以(ゆえん)、ハヌマの奥の手だった。


掴みかかる大猩々達を、巨大化する事で弾き飛ばすと、山へ続く谷間の道を崩し、巨大な岩で塞いだ。


――ドォーン!!!!


「「「ぐッホ!!」」」

「ハヌマー!」「やりやがったッホー!」「塞がれたッホ!」


大猩々の面々は、悔しそうにしていたが、


「まぁ、いいッホ。これで邪魔は入らんッホ!

ハヌマー!! 山を降りて邪魔をするなら、今度こそ命は無いッホ!!!」


と、喚きながらも諦めて戻っていった。


ハヌマは、その声を聞きながら、元の姿に戻ると、ヨロヨロと、その場を後にした……。



――


高地の民の暮らす村は、マウラ山脈の中腹にある。


低地の民に比べると、人口も少なく、100名程度で暮らしている。


マウラ山脈は、高度としては三千m級だ。

山の七合目くらいまでは、自然の恵は豊富である。


山道に慣れきった高地の大猿族ならば、たとえ孤立しようとも、生活に困りはしない。


だが、ハヌマは、事態が事態の為、低地へ続く道を塞いだ事を、皆に説明する事にした。


山の中腹の村は、台地状に平坦になっている土地に作られている。


低地の木造建築とはまた違い、石と木を組み合わせて作られた、それなりにしっかりした家が多い。


何故ならば、高地は低地よりも木々の密度が薄く、風の影響を受けないように、丈夫にしているのだ。


この村の広場は、入口側に寄った場所にある。


滅多にある事ではないが、土地の端が崩れても建物に影響が無いようにとの配慮だ。


外敵対策の櫓が二基、門の代わりになっている。


ハヌマは村に帰るなり、その広場に村の皆を集めた。


「皆、聞いて欲しいッキ! 低地の奴らが、大馬族を攻めるみたいだッキ!」


その言葉に、集まった者達は、皆一様にざわつく。


「「どういうことッキ……」」


「オラは、クウとそれを止めに行ったんだッキ。

……だが、邪魔をすっと殺すと、追われたッキ!

だから、道を塞いできたッキ。

……低地には、下りられないッキ。」


その言葉に、クウが補足するかのように追随する。


「族長は、怪しいヤツと一緒にいたッキ!

族長の村のヤツら、なんか皆変な感じだったッキ!

皆は、関わらない方がいいッキ……。」


「じゃあ、バーナは食べれないッキか……?」


一人の子供が、悲しそうな声をを上げた。


低地で採れる、バナナのような実は、大猿族に人気だったのだ。


「……オラが、山を超えて、北側で採ってくるッキよ!」


ハヌマは、皆を元気付けるように、そう答えた。


「オラも手伝うッキ! だから大丈夫ッキ!」


クウも、子供たちにそう笑いかけた。


――


山脈の山頂は、ハヌマの修行場である。


ハヌマ、そしてクウは、毎日の様に山頂に行く。


だが、反対側に下りる事など、滅多にない。


山脈の北側は、海があるだけで、海産物を採るという習慣の無い彼らには、あまり必要性が無かったのだ。


当然、道らしい道も無い。


「ハヌマ~。あの変なヤツ、なんだったッキな?」


「神様とか言ってたッキな。おそらく、神族なんだッキよ。オラじゃ勝てねぇッキ……。」


「ハヌマが勝てねぇんじゃ、どーしよーもねぇッキよ。」


「ああ……。竜族がいつ攻めてくるかは分からんッキ。この村に来るかも分からんッキ。

オラ達は、オラ達だけで生き残れるようにしないとダメだッキ。

だから、子供達に好きなモン腹一杯食わせるッキよ。」


「ほんとに行くッキか? 村に居なくて大丈夫ッキか?」


「道も塞いであるッキ。大丈夫ッキ。

……心配なら、クウは残るッキか?」


「いや、子供達と約束したッキ。だから行くッキ。それより、怪我はいいッキか?」


「ああ、ゆっくり行けば、何とかなるッキ。」


「じゃ、行くッキよ!」


ハヌマとクウは、争いを止める事は出来なかった。


だが、何もしない訳では無い。


今自分達に出来る事を、精一杯やるだけなのだ。


そうして、ハヌマとクウは、暫しの旅に出るのだった。

ありがとうございました。

またよろしくお願いします!

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