0.2. 一目惚れ編
プロローグの一目惚れの話を詳しくしてみたものです。
「あのね、言っておきたい事があるの……。」
二十年経った今でも、鮮明に覚えてる。
初めて目が合った瞬間――
あれ?オレ、頭に心臓があるのかな?と思ったなぁ。
一目惚れ。
思い返せば、あぁ――これがそうなんだ。といった感覚。
もう、形振り構わず口説き落としたんだっけ。あんな必死になった事、後にも先にも無かったなぁ。
「ん?なに?」
付き合える事になった初日に、何か怖い事を言い出したぞ……と、内心思う。
「私ね、夢があるんだー。」
キラキラした瞳で夢を語る彼女。一目惚れしたのに二度目惚れした。
「へー、なになに?夢があるとかカッコいいなぁー!」
夢。当時は布団の中で見るモノだと思ってました。
羨ましい反面、素直に尊敬する。中身もいい娘だ。
「英語を話せるようになりたいからさ、留学したいんだよねー。だからさ……」
「……うん。」
え、待って待って?嫌な予感がしますよ?
と、ゴクリと唾を飲み込む音を極力静かに誤魔化しつつも、戦々恐々としながら次の言葉を待つ。
「その間、一年くらいは、待っててもらう事になると思うの。いい……かな?」
セーフ!
それまでのお付き合いです。はぁと。とか言われるかと思ったぜ!
セーフ!
しかしだ、上目遣い可愛いかよ!反則です!
あぁもう、綯い交ぜ!綯い交ぜですよ!小悪魔かよ!
(この間1秒)
「んー。付き合える事になったばっかでさ、離れる事考えるのは、ちょっと寂しいけどさ、会えない間に思い出せるようにさ!楽しい思い出、たくさん作ろうよ!」
なんて、クサイ台詞でしたね。分かってるよ!
とはいえ、だ。色んな感情がごっちゃになっててもさ、好きな人の前では冷静を装ってカッコ付けたかったんです!悶え狂いたいところを我慢するんです!
おとこのこですから!
そういうの、あると思います!
え?あるだろ?
――でもさ、凄く喜んでくれたよね。あの時は。本当にさ。
頑張って、言って良かったなって思ったもん。
「ありがとう。」って、ちょっと涙目だったもんね。
あぁ、オレ、この人に出会う為に生まれて来たんだ!
なんて。あの時、柄にも無くそう思ってたよ?
予告通り。
色々な事したよね。
二人で選んでステーションワゴン買ってさ。
ゲーセンも、カラオケも、花見も、紅葉狩りも、水族館も、動物園も、植物園も、遊園地も、花火大会も、お祭りも、プールも、海で潮干狩りも、スキューバダイビングも、バナナボートも、ボディボードも、山でハイキングも、温泉も、スノーボードも、キャンプも、楽しかったね。
観光地も色んなところにバイクツーリングしながら行ったよね。
城跡だとか、神社仏閣だとか。
そういえば、サバイバルゲームなんてのも参加したっけ。至近距離で撃たれた跡は、今も残ってるよ。
あ、そうそう。何だかの記念に飛んだバンジージャンプは、普通に怖かったけどね!
――本当に、最高のカップルだと思ってた。
これが幸せってヤツなのかな?って。39年生きた中で、あの時だけだったかな。女性と居て、そう思ったのは。
それがまさかあんな結末になるとは……。
全然思って無かった。微塵も。まさに皆無。
旅立ちの日が近付くにつれ、
「一緒に居るのが楽しすぎて、離れたくないよぅ。」
って、事ある毎に泣いてたのに。
空港でもさ、ドラマ顔負けだったのに。
留学してからも、最初の頃は電話くれてたのに。
引っ越すって話以来、全然連絡無いなって思ってたら。
「新しい彼氏が出来ました。別れて下さい。」
って。
メール一通だもんな……。
あんまりです。
結局、一年半の間、夢を見てただけだった。
それはそれは美しい夢だったけど。
でも、目が覚めたら、何も無かったんだ。
だから……
リセットしたい。
そう、思ったけど。
リセットボタンは見つからなかった。
ありがとうございました。