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第五話

 ⑳ 君主たちが日々築く城塞は、有益か、有害か



 「・・・有益といってなかったか」

 「いってた」

 「では、なぜ問う」

 「意味わかんないよね。ええっと・・・はぁはぁ・・・なるほどね」

 「分かったか」

 「なんとなくだけど」

 「頼む」

 「これはね。城塞に頼って民生をおろそかにするなって、意味みたいよ」

 「すまん。言っている意味が分からない。何の関係があるんだ」

 「城塞を築くと、外敵の撃退とか反乱の防止とかには有効だけど、その有効さに目がくらんで、どんどん城塞を大きくしたり、いろんな所にむやみやたらと建設すると、お金がかかるでしょ」

 「そうだな。オルレアーノの城壁は、修理だけでも多くの人夫が徴用される。拡張しようものなら更に人夫と資金が必要だ」

 「そうなるとね、税金が上がったり、労役が増えたりして、領民の不満が高まるのよ」

 「高まるだろうな」

 「領民の不満が我慢の限界を越えたら、どんな立派な城塞も役に立たない。そんな事になるぐらいなら、城塞なんていらないって意味みたいよ」

 「なるほど」

 「税金上げて立派な城塞を築いても、領民が不満をため込んだ段階で外敵が攻めてきたら、領民たちからの支持がないから、どんな城塞も陥落する。だから有害になることがある。城塞よりも領民の幸せが大事ってことだと思う」

 「急に真面な事をいい出したじゃないか。これまで散々、抹殺だの壊滅だの冷酷だの、いっていた男の言葉とは思えないぞ」

 「本当だね・・・これはあれよ。武田信玄と同じよ」

 「誰と同じだって」

 「武田信玄」

 「知らない。エリカの国の人か」

 「うん。織田信長と同じ時代の諸侯で、『人は城、人は石垣』って言ったらしいの。いざとなったら頼りになるのは城じゃなくて人だって」

 「正にその通りだな」

 「マキャヴェリも同じことを、言いたかったんじゃないかな。思い返してみたら大阪城も江戸城も、城塞としては役に立たなかったし」

 「なんだそれは」

 「私の国の大きなお城。大阪城は頑張ったけど最期は焼け落ちたし、江戸城は戦もしないで無血開城した。どちらのお城も、いざ戦になったら君主の身は守れなかったのよね」

 「なるほどな。(いくさ)が無いとか言っていたが、エリカの国にも、(いくさ)があるじゃないか」

 「何百年も前のお話だけどね」

 「そうなのか。それにしては詳しいな。俺は昔の話はあまり知らない。教会でたまに聞く程度だ。何処で聞いたんだ」

 「どこでって、私は学校で習ったからね」

 「学校か・・・」

 「うん。小中高大。計十六年通うのよ」

 「十六年・・・そんなに長く通ったのか。凄いな」

 「私の場合は、あと二年残ってるから、正確には十四年間だけど」

 「それでも・・・いったい何歳の頃から学校に行っていたんだ。もしかしてエリカって、思っているよりも年上なのか」

 「そんなことないわよ。少し上なだけよ」

 「本当か?もしかしたらコルネリアよりも年上なんじゃ」

 「なんだと」

 「なぜ怒る。腕まくりはやめろ」

 「女の子の歳を上に言うのは無作法なの。分かった?」

 「エリカの国ではだろう」

 「万国共通よ」

 「共通じゃない。そんな話、聞いたことも無い」

 「ぶう。私はレイナぐらいの年頃には、学校に行っていたの。だからエリックとそんなに変わんないの」

 「分かった分かった。しかし、そんなに小さいころからか・・・だから、レイナや村の子供に読み書きを教えているのか」

 「そうよ。小さいときに覚えたら、一生忘れないからね」

 「なるほどな。よく考えているんだな」

 「私が考えたわけじゃないけどね」

 「俺は学校に行ったことがない。昔、セシリーに王都まで付いてきてくれといわれたが、断った」

 「えっ、どうして。一緒に行ったらよかったじゃない」

 「代官としての責務があった。それに付いて行ったとしても、学校に通えるわけではないからな」

 「そうだったんだ。確かに王都には王立の学園があったわね」

 「ああ」

 「何? 行きたいの学校」

 「そうじゃない。だが・・・いや、何でもない」

 「あの学校って、貴族の子弟が通うのよね。今なら通えるんじゃないの。エリックも騎士なんだし」

 「そうかもしれないが、ニースを離れることになる。無理な話だ」

 「そうよね。レイナはどうするの」

 「どうするとは」

 「レイナは貴族の子弟になったから通えるのよね。王立学園」

 「言われてみると、そうかもな。だが、当分先の話しだろう。レイナの望みもあるだろうし」

 「だよね。無理やり行くものでもないか。私の国の感覚で言うと、高校か大学って位置だもんね」

 「ああ、行きたいというなら構わない」

 「きっと、お金かかるわよ」

 「なんとかするさ」

 「おお、お兄ちゃん」

 「茶化すな・・・随分話が逸れた。何の話しだったか」

 「えっと・・・城塞の話し」

 「ああ、そうだった。害になることもあるんだったな」

 「うん。でもニースには城塞が必要だけどね」

 「そこに異存はない。分不相応に大きな城塞でなければいいだろう」

 「うん。それに、今作ってる城塞は、領主のエリックだけを守るものじゃないしね。村の人の安全にも役立つんだから、有益だよ」

 「それを聞いて安心した。今更、城塞は有害といわれても困るからな」

 「まったくよ」

 「城塞よりも領民を大切にしろか」

 「基本だよね」

 



 ㉑ 君主が衆望を集めるには、どのように振舞うべきか



 「領民の暮らしを考えれはいいのだろう」

 「これはね、他の君主からの衆望のことみたい」

 「そんなもの集めてどうするんだ。国王陛下でもあるまいし」

 「だよね。これは王様の話よね」

 「ああ、国王陛下は神々の恩寵と、諸侯の忠節、民の願いの上に立っていらっしゃる。俺には関係ないだろう」

 「かもね。一応説明すると、衆望を集めるには大事業を成功させる」

 「大事業?たとえば」

 「戦争で勝つ」

 「・・・まぁ、そうだな。負けて頂いては困る。勝っていただかないと」

 「これが出来たら問題はないわね。でも、逆にいっちゃうと、戦争に負けたら求心力が落ちちゃうね」

 「そうならないために、我等がいる」

 「エリック。これが本当だと大変よ」

 「何が大変なんだ。確かに忠節を尽くすことは簡単でしないが」

 「違うの。エリックが王様だったとして、自分に衆望が無くなったらどうする」

 「唐突だな。どうするといわれても、衆望を集めるようにするしかないだろう」

 「そうよね。で、衆望を集めるには戦争で勝つこと」

 「ああ、勝てば周りから見直されるだろう」

 「でも、今の段階では衆望が無いのよ。兵隊集まるかしら」

 「うん?」

 「諸侯は何かと理由を付けて、兵隊を出さないかもしれない。だって、衆望が無いんだから」

 「あってはならないことだが、仮にそうなったら大変だ」

 「そうよね。兵隊の数が少ないと負けるかもしれない。万が一負けちゃったら・・・」

 「流れからいえば、今まで以上に衆望が下がるだろうな」

 「その下がった衆望を回復する為にまた戦争。ずっと、ずーっと戦争よ」

 「それは困る。国が荒れ果てるぞ」 

 「だから、王様は戦争したらダメなんだよ。特に衆望の下がった王様はね。でも、戦争するしかない」

 「どこかで、勝つしかない」

 「そうよね。勝つしかない。こう考えると王様って大変な商売ね」

 「王位は商売ではないぞ。エリカは変なことを考えるな」

 「まあね。・・・そうそう。話は変わるんだけど、誰かと誰かが争っていたら、どちらに加勢するか、旗幟を鮮明にしておけだって」

 「なぜだ。俺たちに関係なければ静観するだろう」

 「そうなんだけど、例えば・・・うーん。どうしよっかな。仮に、仮によ。王様と将軍様が喧嘩したらエリックはどっちに付く」

 「どっちて・・・」

 「意地悪な質問だったかな。答えは、どっちでもいいの」

 「なんだと」

 「駄目なのは、どっちにもつかない事よ。将軍様なら将軍様に付くでいいし、王様に味方して将軍様と戦ってもいいの。駄目なのは中立とか言って、どっちつかずの態度を取り続ける事。両者の争いが終わった時に、勝った方に叩き潰されるって。もしくは負けた方の憂さ晴らしの餌食になる」

 「・・・・・・」

 「勝った方に味方した場合は、褒めてもらえるし、負けた方に味方しても、負けた側が恩義を感じるからだって。大きな争いの時は、はじめっから旗幟を鮮明にした方が、後々に為にはいいみたいよ。これは結構当たってるかも」

 「そうか? 勝った方に付くのは分かるが、負けた方に付くのは駄目なんじゃないか」

 「駄目な場合もあるけど、助かる時もあるわよ」

 「そうなのか」

 「うん。関ヶ原の戦いで、東軍にも西軍にも付かなかった豊臣家は滅んだけど、負けたはずの毛利家とか島津家は滅びなかったもん」

 「ふーん。よく分からないが、あながち間違いとは言えないのか」

 「この二つの家は、三百年近くたった後で復讐を遂げるしね」

 「三百年。よく覚えていたな。随分と執念深い家だ」

 「負けても三百年近く、耐え忍んだのよ。凄くない?」

 「確かに凄い。分かったよ。煮え切らない態度は駄目なんだな」

 「うん。どっちでもいいから味方してね。私も困るから」

 「何に困るんだ」

 「だって、私もどっちに付いたらいいか分かんないから困るわよ」




 ㉒ 君主が側近に選ぶ秘書官



 「秘書官?聞いたことが無い役職だな」

 「いつも君主の傍にいる一番の側近のことよ。だぶん」

 「エミールか」

 「そうなるね。優秀で信頼できる人にしろって。当たり前すぎることだけど」

 「たまに、まともな事をいうな。この男は」

 「君主の良し悪しは、側近を見ればわかるって。優秀な側近を従えている君主は聡明だって。彼らの能力を見抜き、忠誠を守らせているから。逆に優秀でない側近を従えている君主は駄目だってさ」

 「確かにな」




 ㉓ へつらうものをどの様に避けるか



 「心にもないお世辞を、並び立てるような人の事ね」

 「そんな連中を近づけなければいいだろう」

 「簡単にはいかないから、書いてるんだと思うわよ」

 「そうか?」

 「そうよ。人間、誰しも褒められたいものよ。エリックだって貶されるより、褒められる方が嬉しいでしょう。私は嬉しいわよ。私、褒められて伸びる子だもん。だからもっと褒めて」

 「エリカは偉いな」

 「こころが一ミクロンも籠ってない」

 「で、どうやって遠ざけたらいいんだ」

 「あんまり大したことは書いてないわね。有能な側近を選べ。君主が阿諛追従に流されない様にしろ。これぐらいよ」

 「答えになっていない気がするな」

 「うん。それが出来ないから困ってるんだけどね」

 「阿諛追従か。そういえばフス殿がやたらと俺を褒めるんだが、あれはへつらいなのか」

 「うーん。どうなんだろう。近い気がする。あの人に褒められて、悪い気はしないでしょ」

 「大げさだとは思うが、確かに悪い気はしない」 

 「ボスケッティ神父もたまに私を褒める。ユリアは・・・」

 「シスター・ユリアはへつらいとかではなく本気でいってそうだがな」

 「あの子は、高等神聖語が読める人は偉いって図式だからね」

 「確かに、避けるのは難しいかもな」

 「うん。難しいと思う」




 ㉔ 君主が国を失うことが、何故起こるのか。



 「ここまで述べてきたことを守らないからだって。まとめに入ったわね。もうすぐ終わりよ」

 「長かった」

 「ここまで、読んでみてどう思った」

 「面白い話だったよ」

 「役に立ちそう?」

 「立つだろう。受け入れられない話もあったが、学ぶべきところは多かったと思う」

 「よかった」

 「これまでやってきたことが、無駄でないと分かっただけでも安心したよ」

 「うん。ギルドで資金力を付けて、そのお金で軍事力を上げて、仲間をいっぱい集めないとね」

 「一人では無理だな」

 「全然無理よ」


 長年、君位についていた諸侯が没落したからといって、責任を運命に追わせては困るのだ。これらは君主の怠慢のせいで起るのである。軍備を疎かにして、民衆を敵に回したからである。

 凪の日に、時化の事を考えないのは人間共通の弱点だ。

 平穏な時代に天候が変わるのを全く考えなかった。いざ雲行きが怪しくなると逃げる事だけを考え、自領の防衛などを思いもしなかったからである。

 いつしか民衆が、征服者の横暴に耐えかねて、自分を呼び戻してくれると、一縷の望みをもったのだ。

 他に打つ手がない場合であれば、この方針でも良かろう。

 だが、この方針だけを当てにしたのであれば、愚かであろう。

 そのような事態は滅多と起こらないからである。

 つまり、君主の手腕による防衛のみが立派で、確実で、永続するのである。


 


 ㉕ 運命は人間の行動にどれ程の力を持つのか、運命に対してどのように抵抗すればいいのか。



 「・・・急にどうした。マキャヴェリ」

 「運命って言われてもね」

 「人の運命は神々によってもたらされるものだ。人の身ではどうすることもできない。ただ、信仰を守り、善徳を成し、その身を糺せば、おのずと運命に祝福される」

 「おお、凄いエリック。そんなこと考えたの」

 「と、メッシーナ神父が仰っていた」

 「受け売りかい」

 「受け売りだが、間違ってはいないと思うぞ。人の身にはどうすることも出来ないから、運命なのだろう」

 「だね。一般論としてはその通り。でも、エリックはそれに抗うって決めたんでしょ。セシリアが将軍の娘と知った時に」

 「・・・そうだ」

 「運命の神様に蹴りを入れる行為だよ」

 「そうかもしれない。しかし、後戻りはしない。悔い改めたりもしはないぞ。不敬であったとしても、運命に蹴りを入れてやる」

 「よし。蹴りを入れに行こう。私も常々、神様の野郎には一言いいたかったからね。一緒に行くわよ」

 「地獄に落ちるかもしれないぞ。いいのか」

 「落ちてから考える」

 「フッ、ハッハハ。エリカらしいな」

 「フフフッ・・・そうかな」



 私が考える運命の見解はこうである。

 人は慎重であるよりも、むしろ果断に進む方が良い。なぜなら運命は女神だから、彼女を征服しようと思えば、打ちのめし、突き飛ばす必要がある。運命は冷静な行いをする人よりも、こんな行いをする人の言いなりになる。

 要するに、運命は女性に似て若者の友である。若者は、思慮を欠いて、荒々しく、いたって大胆に女性を支配するのだから。



   一五一三年 フィレンツェ共和国 元書記官 ニッコロ・マキャヴェリ          



               終わり        

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 いかがだったでしょうか、「異世界チート知識で領地経営しましょう外伝 異世界君主論」

 マキャヴェリの「君主論」などという「本物」のチート知識を登場させるという、かなり実験的な作品となりました。

 本作は、本編でやるには長すぎるし、要領よくまとめることも不可能でしたので、この様な形で作成してみました。

 描写を削り、二人の会話だけで構成した、対談形式の作品となりましたので、読みにくい点もあったと思います。ご容赦を。

 最後の26節は、二人には関係ないので割愛いたしました。


 ご意見、ご感想などございましたらお気軽にどうぞ。

 登録、評価などして頂けたら喜びます。


 では、本編も引き続き、御贔屓に願います。( ̄▽ ̄)//

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[良い点] 面白かったです、何よりテンポがイイ。 外伝は思想関係の本なので全然違うのですが、最初の方の異世界チート知識で領地経営しましょうの、本を片手に物作りをしてた頃を思い出しました。 本編では…
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