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エピローグ



 レグたち落第組が、エイム・フィール率いる魔術師組のトップチームを打倒したという噂は、すぐさま学園中を駆け巡った。



「魔術師組に勝ったって本当⁉ シルバっちたちすごすぎない⁉」



「……みんな、すごい……感動……」



「正直、まだ信じらんないけど……やったんだね、おめでとう」



「僕がいればもっと早く倒せてただろうけどね~!」



「……キャロルちゃん、おめでとう」



 演習会翌日――興奮冷めやらない落第組の面々が、口々にレグたちのチームを称える。



「……」



 だが、クラスメイトの盛り上がりに反して、シルバ、サナ、キャロルの三人は暗い顔をしていた。


 魔術師組との戦闘が終わった後、戦闘不能になっていた彼らは医務室に運ばれ、ベッドの上で自分たちの勝利を聞かされたのだが。


 初めに湧き出た感情は、喜びではなく悔しさだった。


 演習会が始まる前は、どんなことがあっても勝てればいいと思っていたが――しかし。


 勝負が終わって残ったのは、後悔。



「……なあ、サナ」



「……何よ、シルバ」



「……もっと強くなりてえよな」



「……珍しくあなたと同意見だわ」



「……わ、私も……本当に、もっと強くなりたい」



 三人は小さく呟き、顔を見合わせる。


 そして――前を向く。


 次回の演習会は、三カ月後。


 一年から三年生までが競い合う、全学年対抗大演習会。


 三人はそれぞれの思いを胸に、強くなることを決意する。





 同時刻。


 庭園に置かれたベンチに、レグが腰かけていた。



「……」



 ここは、倉庫での一件の後、エルマの生い立ちを聞いた場所でもあり。


 自分の中の神内功を認め、友のために強くなると決意した場所でもある。



「……あっ」



 不意に声が届いた。



 見れば、そこには青い瞳を開いたエルマ・フィールの姿があった。



「おはようございます、レグさん」



「……おはよう、エルマ」



 別に待ち合わせをしていたわけはないのだが……ただ何となく、足がこの場所に向いた。


 彼女は、レグの隣に腰かける。



「……演習会、勝ちましたね」



「……ああ、勝ったな」



「正直、今も実感がないんです。魔術師組のトップ層が集まったチームを倒したなんて……人づてに聞いたら、何の冗談かと思ってしまいます」



「そうかもな。でも、勝ったんだ」



 勝った、と言うレグの表情は暗い。



 エイム・フィールは降参したが、まだまだ体力的には戦う余裕があっただろう。あのまま戦闘が継続していたら……恐らく、負けていた。


 レグが負けるということは、つまり自分の価値を証明できず。


 呪いの子として――処刑されてしまうということ。


 今回は、たまたま運がよかった。

 次はどうなるかわからない。


 イリーナを悲しませないため……そして何より、エルマの目的を果たすため。


 絶対に、負けられない。



「俺は、今より強くなるよ。ソロモンを卒業するまでに、必ず一番のチームになろう」



「ええ。私たちならきっとできます」



 ニコッと自然に微笑む彼女からは、以前のような人を寄せ付けない雰囲気は感じられない。


 少しずつ、変わってきている。


 エルマも。


 レグも。



「……なあ、エルマ」



「? どうしました?」



 彼女に唯一隠している秘密。


 呪いの魔素を何とかできなければ、三年後に命を落としてしまうという秘密を……レグは、打ち明けようか迷っていた。


 今現在嵌めている緋玉の腕輪では、その運命は変えられない。


 学長やイリーナさんが新たな魔具を開発してくれているが、彼らの努力も空しく、呪いに打ち勝つことはできないかもしれない。



「……いや、何でもない」



 その不安を――レグは飲み込んだ。


 死の恐怖。


 ()()()()()()()()()()()……彼は知っている。


 神内功は知っている。


 だからこそ。


 もし呪いに対抗できず、三年後に死んでしまうとしても……エルマだけは。


 彼女のことだけは、何とかしなければと。


 レグは、秘かに誓う。



「……? そうですか。話したくなったら、いつでも話してくださいね」



 エルマも何かを察し、それ以上追求しなかった。


 彼女の目的。


 魔法の使えない自分でも、魔術師の誇りを持って生きていいんだと、世界に思い知らせること。


 それを為すために、この学園で成り上がる。


 同じチームとして。

 仲間として。

 友として。


 そして――



「……エイムとは、あの後何か話したのか?」



「兄とは、少しだけ……私の下宿先を教えて、兄の寮の部屋番号を聞きました。何かあれば、遠慮なく頼っていいそうです」



「……そっか」



 無事に兄妹としての第一歩を踏み出したようで、レグは安心する。


 もし。


 自分が呪いの子だと誰かにバレ、三年を待たず処刑されることになっても……血の繋がった家族が味方にいれば、心配はない。


 それに、チームのみんなもいる。


 サナ。

 シルバ。

 キャロル。


 みんなにも、いつか秘密を打ち明ける時がくるのだろう……不思議と、それが嫌ではなかった。


 自分の弱みを晒しても、構わない。

 むしろ弱さを受け入れてもらうことで――強くなれる。


 それが友達だと、レグは知ったのだから。



「……そろそろ、いきましょうか。授業が始まってしまいます」



 エルマに促され、レグは伸びをしながら立ち上がった。


 いつもの調子で呑気に欠伸をする彼の横顔を、エルマはじっと見つめる。



「……あの、レグさん」



「ん?」



「あと一週間で、長期休暇ですね。どこか行かれる予定はあるんですか?」



 神内功が生きていた世界と同様に、学園ソロモンには夏休みがある。


 ほとんどの生徒は実家に帰るのだが、中には諸々の理由で帰りづらい者もいるのだ。



「んー、特に決めてなかったけど……イリーナさんのところに帰るわけにもいかないし、つーか帰ってくるなって言われてるし……大人しくここら辺で修行でもしてるかな」



「そう、ですか……」



 エルマは、彼女にしては珍しくはっきりしない態度で、手をもじもじとこねる。



「あ、あの……もしよろしかったら、一緒に修行しませんか? 私も実家に帰れませんし、他にやることもないので……」



「あ、そうか。よし、だったら二人で特訓して、サナたちを驚かせてやろうぜ」



「……それと、その……」



 もじもじと体の前で動かしていた手を止め、彼女は意を決したように口を開く。



「修行が終わったら……どこか、二人で遊びに行きませんか? その、私なんかと出かけても面白くはないと思いますが……」



「えっと……」



 遅れて、自分がデートに誘われているのだと理解する。


 ……いや、デートなのか?

 友達として、親交を深めるために遊びに行きたいだけでは?

 変に期待する方が不誠実じゃないか?


 レグの頭の中に、思春期の男子らしい悶々とした思いが巡る。



「……嫌だったら、気を遣わずにそう言ってくださいね。自分でも、話していてつまらない女だと自覚しているので……」



「いや、エルマはつまらなくないよ。むしろ、一緒にいて楽しいっていうか……」



 言って、レグは赤くなる。


 つられて、エルマの頬も色づいた。



「……その、俺の方こそ、修行ばっかりで遊ぶ場所とか全然知らないんだけど、大丈夫かな」



「それなら、いくつか行きたい場所があるので、そこを候補にしましょう……日程は、また後日決める形で」



「そ、そうだな。とりあえず、教室に戻ろうか」



「ええ……そうですね」



 ぎこちなく先導するレグの後ろを、エルマが笑顔でついていく。


 呪われていても、学生生活を楽しんでいけない道理はない。


 そんな風に自分を落ち着かせ――レグは歩く。


 友達が待つ、自分の教室に向かって。



 落第組の呪いの子は、今日も生きる。




 ……制服以外にまともな服を持っていないと気づくのは、デートの朝になってから。





 お世話になります、いとうヒンジです。

 長編三作目となる今作も、無事第一部完結の運びと相成りました。呪いの子の戦いはまだまだ続きますが、ここらで彼らの物語は一区切りとさせて頂きます。


 次作の長編は少しコメディ色が強いものになりそうです。予定は未定ですが。

 並行して恋愛ものの短編をいくつか執筆予定ですので、そちらも併せてお読み頂けると幸いです。


 では、また新しい作品でお会いできることを願っています。


 よしなに。


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