エピローグ
レグたち落第組が、エイム・フィール率いる魔術師組のトップチームを打倒したという噂は、すぐさま学園中を駆け巡った。
「魔術師組に勝ったって本当⁉ シルバっちたちすごすぎない⁉」
「……みんな、すごい……感動……」
「正直、まだ信じらんないけど……やったんだね、おめでとう」
「僕がいればもっと早く倒せてただろうけどね~!」
「……キャロルちゃん、おめでとう」
演習会翌日――興奮冷めやらない落第組の面々が、口々にレグたちのチームを称える。
「……」
だが、クラスメイトの盛り上がりに反して、シルバ、サナ、キャロルの三人は暗い顔をしていた。
魔術師組との戦闘が終わった後、戦闘不能になっていた彼らは医務室に運ばれ、ベッドの上で自分たちの勝利を聞かされたのだが。
初めに湧き出た感情は、喜びではなく悔しさだった。
演習会が始まる前は、どんなことがあっても勝てればいいと思っていたが――しかし。
勝負が終わって残ったのは、後悔。
「……なあ、サナ」
「……何よ、シルバ」
「……もっと強くなりてえよな」
「……珍しくあなたと同意見だわ」
「……わ、私も……本当に、もっと強くなりたい」
三人は小さく呟き、顔を見合わせる。
そして――前を向く。
次回の演習会は、三カ月後。
一年から三年生までが競い合う、全学年対抗大演習会。
三人はそれぞれの思いを胸に、強くなることを決意する。
◇
同時刻。
庭園に置かれたベンチに、レグが腰かけていた。
「……」
ここは、倉庫での一件の後、エルマの生い立ちを聞いた場所でもあり。
自分の中の神内功を認め、友のために強くなると決意した場所でもある。
「……あっ」
不意に声が届いた。
見れば、そこには青い瞳を開いたエルマ・フィールの姿があった。
「おはようございます、レグさん」
「……おはよう、エルマ」
別に待ち合わせをしていたわけはないのだが……ただ何となく、足がこの場所に向いた。
彼女は、レグの隣に腰かける。
「……演習会、勝ちましたね」
「……ああ、勝ったな」
「正直、今も実感がないんです。魔術師組のトップ層が集まったチームを倒したなんて……人づてに聞いたら、何の冗談かと思ってしまいます」
「そうかもな。でも、勝ったんだ」
勝った、と言うレグの表情は暗い。
エイム・フィールは降参したが、まだまだ体力的には戦う余裕があっただろう。あのまま戦闘が継続していたら……恐らく、負けていた。
レグが負けるということは、つまり自分の価値を証明できず。
呪いの子として――処刑されてしまうということ。
今回は、たまたま運がよかった。
次はどうなるかわからない。
イリーナを悲しませないため……そして何より、エルマの目的を果たすため。
絶対に、負けられない。
「俺は、今より強くなるよ。ソロモンを卒業するまでに、必ず一番のチームになろう」
「ええ。私たちならきっとできます」
ニコッと自然に微笑む彼女からは、以前のような人を寄せ付けない雰囲気は感じられない。
少しずつ、変わってきている。
エルマも。
レグも。
「……なあ、エルマ」
「? どうしました?」
彼女に唯一隠している秘密。
呪いの魔素を何とかできなければ、三年後に命を落としてしまうという秘密を……レグは、打ち明けようか迷っていた。
今現在嵌めている緋玉の腕輪では、その運命は変えられない。
学長やイリーナさんが新たな魔具を開発してくれているが、彼らの努力も空しく、呪いに打ち勝つことはできないかもしれない。
「……いや、何でもない」
その不安を――レグは飲み込んだ。
死の恐怖。
何も為さずに死ぬ恐怖を……彼は知っている。
神内功は知っている。
だからこそ。
もし呪いに対抗できず、三年後に死んでしまうとしても……エルマだけは。
彼女のことだけは、何とかしなければと。
レグは、秘かに誓う。
「……? そうですか。話したくなったら、いつでも話してくださいね」
エルマも何かを察し、それ以上追求しなかった。
彼女の目的。
魔法の使えない自分でも、魔術師の誇りを持って生きていいんだと、世界に思い知らせること。
それを為すために、この学園で成り上がる。
同じチームとして。
仲間として。
友として。
そして――
「……エイムとは、あの後何か話したのか?」
「兄とは、少しだけ……私の下宿先を教えて、兄の寮の部屋番号を聞きました。何かあれば、遠慮なく頼っていいそうです」
「……そっか」
無事に兄妹としての第一歩を踏み出したようで、レグは安心する。
もし。
自分が呪いの子だと誰かにバレ、三年を待たず処刑されることになっても……血の繋がった家族が味方にいれば、心配はない。
それに、チームのみんなもいる。
サナ。
シルバ。
キャロル。
みんなにも、いつか秘密を打ち明ける時がくるのだろう……不思議と、それが嫌ではなかった。
自分の弱みを晒しても、構わない。
むしろ弱さを受け入れてもらうことで――強くなれる。
それが友達だと、レグは知ったのだから。
「……そろそろ、いきましょうか。授業が始まってしまいます」
エルマに促され、レグは伸びをしながら立ち上がった。
いつもの調子で呑気に欠伸をする彼の横顔を、エルマはじっと見つめる。
「……あの、レグさん」
「ん?」
「あと一週間で、長期休暇ですね。どこか行かれる予定はあるんですか?」
神内功が生きていた世界と同様に、学園ソロモンには夏休みがある。
ほとんどの生徒は実家に帰るのだが、中には諸々の理由で帰りづらい者もいるのだ。
「んー、特に決めてなかったけど……イリーナさんのところに帰るわけにもいかないし、つーか帰ってくるなって言われてるし……大人しくここら辺で修行でもしてるかな」
「そう、ですか……」
エルマは、彼女にしては珍しくはっきりしない態度で、手をもじもじとこねる。
「あ、あの……もしよろしかったら、一緒に修行しませんか? 私も実家に帰れませんし、他にやることもないので……」
「あ、そうか。よし、だったら二人で特訓して、サナたちを驚かせてやろうぜ」
「……それと、その……」
もじもじと体の前で動かしていた手を止め、彼女は意を決したように口を開く。
「修行が終わったら……どこか、二人で遊びに行きませんか? その、私なんかと出かけても面白くはないと思いますが……」
「えっと……」
遅れて、自分がデートに誘われているのだと理解する。
……いや、デートなのか?
友達として、親交を深めるために遊びに行きたいだけでは?
変に期待する方が不誠実じゃないか?
レグの頭の中に、思春期の男子らしい悶々とした思いが巡る。
「……嫌だったら、気を遣わずにそう言ってくださいね。自分でも、話していてつまらない女だと自覚しているので……」
「いや、エルマはつまらなくないよ。むしろ、一緒にいて楽しいっていうか……」
言って、レグは赤くなる。
つられて、エルマの頬も色づいた。
「……その、俺の方こそ、修行ばっかりで遊ぶ場所とか全然知らないんだけど、大丈夫かな」
「それなら、いくつか行きたい場所があるので、そこを候補にしましょう……日程は、また後日決める形で」
「そ、そうだな。とりあえず、教室に戻ろうか」
「ええ……そうですね」
ぎこちなく先導するレグの後ろを、エルマが笑顔でついていく。
呪われていても、学生生活を楽しんでいけない道理はない。
そんな風に自分を落ち着かせ――レグは歩く。
友達が待つ、自分の教室に向かって。
落第組の呪いの子は、今日も生きる。
……制服以外にまともな服を持っていないと気づくのは、デートの朝になってから。
お世話になります、いとうヒンジです。
長編三作目となる今作も、無事第一部完結の運びと相成りました。呪いの子の戦いはまだまだ続きますが、ここらで彼らの物語は一区切りとさせて頂きます。
次作の長編は少しコメディ色が強いものになりそうです。予定は未定ですが。
並行して恋愛ものの短編をいくつか執筆予定ですので、そちらも併せてお読み頂けると幸いです。
では、また新しい作品でお会いできることを願っています。
よしなに。




