開演 001
学年別演習会。
成績の大部分を決定づける重要な行事であり――多くの学生が、この日のために修練を積んでいる。
今回、一年生に課されたのは「対人戦闘」。
それも、チーム同士による勝つか負けるかの一発勝負。
もちろん、戦闘の内容も評価の対象になるので負けたからといってそこまで悲観することもないのだが……それは善戦できた場合だ。
圧倒的な実力差があるチームと戦い惨敗すれば、内容など評価に値しない。
それ故、みな自分たちより弱いチームが対戦相手になるように祈っていた。
同時に――一年生最強のエイム・フィールが属するチームとだけは、何が何でも戦いたくないと……誰もがそう思っていたのだ。
そんな彼らと戦うという貧乏くじを引いてしまったのは、落ちこぼれが集まる通称落第組。
レグ・ラスターたちのチームだった。
「まあ、逆に引きが強いっつうかなんつうか……向こうからしたら、落第組に当たってラッキー、くらいにしか思ってねえんだろうな」
演習会当日の朝。
落第組の教室で、シルバ・チャールは溜息をつきながら愚痴をこぼす。
「ここまできたらもうやるしかないわよ! 気合入れなさい、シルバ!」
そんな彼を鼓舞するように、サナ・アルバノは大声を出した。
「うるせえな、おい。お前緊張してんじゃねえのか」
「う、うるさいわね! 全然緊張なんてしてわいなよ!」
「口が回ってねえじゃねえか……とりあえず深呼吸でもしろって」
一年生の演習会の会場は、塔の三十階から三十九階である。
それぞれの階層は森や街中などの独自の地形をしており、戦闘場所に応じた柔軟な戦い方が求められるのだ。
レグたちが戦う場は、レザール周囲の森を模した地形をした三十階。
奇しくも、毎日の特訓で使っていた演習場の地理条件と同じだった。
「偶然だったけど、いつも特訓してるような場所が会場でよかったねっ。少しは幸先良さそうだねっ」
サナ同様緊張した面持ちのキャロル・レッドは、そんな風に状況を肯定しようとする。
「偶然……ですか」
対して普段通り冷静なエルマは、秘かに考える。
――確かに偶然で処理できる確率ではある……でも、特訓の場所を選んだのはあのメンデル先生……。
もしかすると、彼が自分たちにとって有利になるように事を運んでいたのではないかと……そこまで考えたところで首を振った。
――裏にどんな思惑があっても、私は私にできることをするだけ。
彼女は大きく息を吸い、ふうと吐き出す。
そして、向かいに座っている少年。
レグ・ラスターを見つめた。
「……? どうかしたか、エルマ」
「いえ……何でもありません」
彼のお陰で、他人と共に戦うことを知った。
彼のお陰で、自分は一人じゃないと知った。
――今日は、その恩義を返す時……。
エルマの青い瞳は、強く輝いている。
「何か、気合十分って感じだな」
「お前も少しは気合入れやがれ、レグ。もうそろそろ始まるぞ」
シルバに言われて時計を見れば――あと五分で、戦いが始まる時間だった。
「……よし、じゃあいくか」
レグが席を立つのに合わせて、他の四人も立ち上がる。
「レグっち~、シルバっち~、サナっち~、エルマっち~、キャロルっち~、頑張ってね~」
「魔術師なんてボコボコにしてきなさいよ! ……あ、もちろんエルマさんのことじゃないからね!」
「エイムくんは僕の次に強いからねー! 油断しないようにねー!」
「……頑張って」
「キャロルちゃん、無理はしないでね」
出番を控える落第組の声援を受け。
彼らは、塔の三十階へと向かう。




