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開演前 001



「おや、まだ残っていたんですか」



 レグとキャロルが固い握手を交わした直後――教室の戸が開き、メンデルが中に入ってきた。



「あっ……もう、帰るところです……」



 キャロルは急に恥ずかしくなり、手を引っ込める。



「はいはい、お気をつけて」



 その様子を微笑みながら眺めるメンデルは、片づける仕事が残っているのだろう、、教卓の上でゴソゴソと書類を広げ出した。



「……あ、そうそう。本当は明日のHRで話す予定だったのですが、丁度いい。お二人には先に伝えておきましょう」



「……? 何ですか?」



 キャロルの問いかけに、彼は不敵に口角を上げる。



「演習会での君たちのチームの対戦相手が決まりまして……何を隠そう、生徒会選挙で見事当選したエイム・フィールくん率いるチームと、戦うことになりましたよ」





「はあああああああああああああああああ⁉」



 翌日、朝のHR前。


 演習会の対戦相手がエイムたちのチームであると知らされたレグとキャロルは、そのことを他のメンバーに話した。


 一瞬の硬直時間の後、サナとシルバが同時に大声を上げたのである。



「ありえない……よりによって魔術師組の、しかもエイム・フィールのいるチームと当たるだなんて……」



 サナはわかりやすく落胆し、机に突っ伏した。


 その隣で、シルバも口を開けて天井を見つめる。



「どうしたんだよ二人とも」



 そんな彼らに対し、レグだけが通常運転だった。



「……何でこのアホは事の重大さがわかってねえんだ。キャロルも説明してやらなかったのか」



「あ、あの……一応、話はしたんだけど……」



 昨日メンデルから対戦相手の話を聞いたキャロルは、今の二人と似たり寄ったりのリアクションを取った。そしてその理由を、レグに説明したはずである。



「……さまざまな種類の試験がある中で、今回の演習会の内容は()()()()なんです、レグさん」



 これまで静かに目を閉じていたエルマが、ゆっくりと口を開く。



「一発勝負?」



「はい。純粋なチーム力を競う、一チーム対一チームの戦闘です。各クラス五つ、学年で合計三十のチームが、ランダムに対戦相手を振り分けられ……相手の五人を戦闘不能にすれば勝ちという、シンプルなものです」



 例年、一年生が最初に行う演習会では、中級のダミー魔族を倒すという課題が与えられる。


 だが今年は、対人形式の試験が採用された。


 しかも、戦闘のチャンスは一回のみ。


 そこで負けてしまえば――今後の成績にも大きく響いてくることは、想像に難くない。



「D組かE組の人間組のチームと戦うことができれば、それだけで勝利に一歩近づきましたが……魔術師組が相手となると、やはり一筋縄ではいきません」



 一年生のこの時期では、入学時の実力から大きく成長している者は少ない。


 だからこそ、生徒同士で戦う試験内容では魔術師組が有利過ぎて不公平だとみなされていたのだ。



「なるほどな。だからサナとシルバは変な感じになってるのか」



「変な感じってのは何だ、おい……つーか、この前も全く同じ説明をしただろーが」



「ごめん、聞いてなかった」



「頼むから聞いててくれ……」



 怒る気力すらもなくなっているシルバは、力なくそうこぼすしかなかった。



「……とりあえず、敵が魔術師ってわかったなら、それ相応の対策を練らないとね……」



 机に伏したままの姿勢で、サナが言う。


 態度は後ろ向きだが、心は前向きにしようとしているらしい。



「サナさんの言う通りです。演習会が始まるまでの間に、対魔術師用の連携を強化しましょう。残された時間は少ないですが、できることはあるはずです」



 エルマの毅然とした口調からは、目的のために最大限努力する意思が窺がえた。


――……お兄さんに勝つ算段は、今のところない。でも、それは諦める理由にはなりません。


 双子の兄、エイム・フィール。


 彼の力はあまりにも強大で、自分一人では到底敵う相手ではない。


――だけど私は、一人じゃない。


 チームのみんな。

 そして、レグ。

 誰かに頼ることを覚えた今の自分なら、この困難も乗り越えることができると……そう感じる。



「……ま、うじうじしてても仕方ねーか。合法的に魔術師をぶん殴れるって考えれば、案外ストレス解消にもなるしな」



「そうね……私もいろいろ、溜まってるものがあるし。演習会で存分に暴れさせてもらおうかしら」



 エルマの言葉を受け、シルバとサナもやる気を取り戻していく。



「あ、あのー……」



 だが一人。


 未だ陰鬱とした表情を浮かべたままのキャロルが、恐る恐る手を挙げた。



「私……まだ精霊魔法が上手く使えてないんだけど、大丈夫かな……」



 演習会まであと六日、彼女の不安はもっともである。



「それは……確かに厳しいわね。精霊魔法の特訓もしながら、簡単な魔具を使えるように修行するしかないかも」



「そ、そうだよね……うん、頑張るしかないよね」



 不安そうな顔をしながらも、キャロルは両手をグッと握り込んだ。


 それを見て、サナは不思議そうに首をかしげる。



「……つきものが落ちたみたいだけど、何かあったの? 申し訳ないけど、今までのキャロルなら『頑張る』なんて言葉を使うとは思えなくて」



「え⁉ べ、別に何もないよ!」



 思わぬ追及を受けたキャロルは、ブンブンと両手を振った。


 そして、ちらっとレグの方を見る。



「なになに、レグと何かあったんでしょ? 白状しちゃいなさいよ、このこのー」



 その目の動きを見逃さなかったサナは、キャロルの脇腹を指で小突いた。



「や、やめてよサナちゃん! 何もないってば!」



「ほんとに~? さっきのキャロル、乙女の目をしてたけど~?」



「してないよ! もー!」



「あのー」



 和気藹々と盛り上がる二人を無視するかのように、レグが間の抜けた声を出しながら挙手をする。


 そして、誰もが忘れていた懸念点をあげた。



「俺も、全然魔具が使えてないんだけど」




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