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エルフの少女 003



――はあ……みんなの視線が痛い……。


 改めてチームメンバー同士で魔法を見せ合うという流れになり、キャロル・レッドは憂鬱な気持ちになっていた。


――チームに誘ってもらった時は何となくオーケーしちゃったけど……やっぱりスカーくんと組んだ方がよかったかなぁ……。


 ソロモンに入学してから数週間が経ったが、彼女はスカー以外のクラスメイトとまともに会話をしたことがない。


 それは種族に関する差別意識からではなく……もっと単純な彼女の性格の所為である。


 極度のあがり症で、人見知りなのだ。


 スカーとは昔馴染みなので何とか日常会話くらいはできるが、その他のクラスメイトと話すにはまだ時間がかかりそうである。


――本当は、もう少しちゃんと精霊魔法も使えるのに……。


 キャロルは自分の不甲斐なさに溜息をつく。


 去年まで通っていた地元の魔法学校では、それなりの成績を収めることはできた。だから意を決して最高峰の魔法学園、ソロモンを受験したのだが……蓋を開けてみれば落第組という、何とも格好のつかない結果である。


――だって、あんなにたくさんの人が見ているなんて思わなかったし……。


 入学試験当日、多くの受験生や試験官の目に晒されての実技試験で、彼女は全く実力を発揮できなかった。仮に発揮できていたとしても、エルフ組に入れたかどうかは怪しいが……とにかく、その時点でキャロルの自信は完全に無くなってしまったと言ってもいい。


――でも、()()()を出るにはここに入学するしか……



「大丈夫、キャロル?」



 ぼーっと物思いに耽っていた彼女の肩を、心配したサナが叩く。



「えっ⁉ あ、大丈夫です……ごめんなさい……」



「だから一々謝んじゃねえ!」



「ひっ⁉」



「シルバうるさい!」



 キャロルの反応に苛立つシルバに対し、サナが回し蹴りを放った。二人は互いに睨み合い、野生動物のような唸り声をあげる。


――やっぱり、この人たち怖いよ……。


 どうにも仲良くなれそうにない。今からでもチームを抜けると言った方がいいだろうか。みんなも、それを望んでいるみたいだし……。



「気にしないでください、キャロルさん」



 そんな風に後ろ向きなことを考えている彼女に、エルマが話しかける。



「あ……エルマさん……」



 正直、彼女のことは気になっていた。教室内で浮いている者同士とでも言うのだろうか……交友関係が極端に狭い者同士として、勝手にシンパシーを感じているのかもしれない。


 キャロルはエルマの青い瞳をじっと覗き込む……うわぁ、近くで見るとすごい綺麗……。



「あ、あの……どうかしましたか?」



「あ、ごめんなさい!」



 綺麗なものや可愛いものに目がない彼女は、時たま我を失って没頭してしまうことがあるのだ。一拍置いて、恥ずかしさで顔が赤くなる。



「? 大丈夫ですか? 体調が優れないようなら医務室に……」



「あ、全然大丈夫だから! ごめんなさい、心配かけて」



 キャロルはがんぶんと頭を振ると、サラリと伸びた金髪が揺れた。



「その……金髪、いいですね。エルフの特徴が色濃く出ている、とても素敵な髪だと思います」



「え? そ、そうかな……」



 突然褒められたことで、彼女は戸惑う。


 だがもっと戸惑っていたのは、誉め言葉を言ったエルマ自身だった。


 様子がおかしいキャロルに対し、何か言葉をかけなければと思っての発言だったのだが……あまりにも慣れていないので不自然になってしまった感は否めない。



「すみません、何でもないです」



「え、えっと、ありがとう、エルマさん。すごく嬉しい……あの、エルマさんの目も、とっても綺麗だと思うよ」



「そ、そうですか? そんなことは……」



「そんなことあるよ! すっごく綺麗で、私びっくりしちゃった!」



 興奮した彼女がエルマの両手を掴む。



「あのー……その話が終わったら自己紹介の続きをしてもらってもいい?」



 抵抗するシルバを羽交い絞めにしているサナが、二人に向かって声を掛ける。いつの間に乱闘になっていたのかは知らないが、いざこざは収まったようだ。



「あ、うん……。私は、キャロル・レッド。種族はエルフで、スカーくんとは幼馴染なの。使えるのは精霊魔法……一応、そのはず……」



 後半に自信がなく、段々と音量が小さくなっていく。



「使えることには、使えるってこと? その、ちゃんとした精霊魔法を」



「……前いた魔法学校では、それなりに、使えてたんだけど……この学園に入学してから、周りの目が気になって、上手く使えなくなっちゃって……」



「精霊魔法は、使う者の感情に大きく作用される魔法ですから……慣れない環境にいると、上手く扱えなくなってしまうのかもしれませんね。キャロルさんの場合、『恥ずかしい』という感情が邪魔になって、精霊の魔力を借りられていないのだと思います」



 エルマは、彼女の置かれている状況を的確に推理した。ここ数週間、キャロルが精霊魔法を使えていないのは、「恥ずかしさ」故であると。



「だったら、簡単じゃないか」



 しばらく黙っていたレグが口を開く。


 みなが、彼に注目する。



「人に見られるのが恥ずかしい所為で魔法が使えないなら、誰かに見られた状態でも恥ずかしくならないように特訓すればいいだけだろ?」



「特訓って……それができれば苦労しないけど……具体的には何をするの?」



 サナの当然の疑問に対し、レグは言う。


 あっけらかんと。



「誰かに見られるより恥ずかしいことに慣れればいいんじゃないか? 例えば、全裸になって過ごすとか……」



「そんなの無理です‼」



 広い演習場内に、キャロルの叫び声が響き渡った。




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