チーム 001
レグとエルマが、学長室に呼び出されていた時刻。
落第組の教室は、今までにない緊張感に包まれていた。
原因は、教室の一番前に座る赤い髪の少女。
サナ・アルバノだった。
「………………………………………」
不機嫌な顔でダンダンとリズミカルに右足を踏み鳴らし、腕を組んでいるその様は――まるで爆発寸前の時限爆弾のようでもある。
「……ねえねえ、サナっちどうしたの? シルバっち、何か知らないの?」
兎の耳が生えた獣人の少女――ラビ・クオンは、爆弾を刺激しないように小声で尋ねた。
天真爛漫で少々空気の読めない彼女ですら気を遣うのだから、教室内の雰囲気が相当悪いことが窺える。
「……ああ? なんで俺に訊くんだよ」
「だって、サナっちと仲いいじゃん。実技授業でいつも一緒にいるし」
「あれは、レグと戦ってるところにあいつが割り込んできてるだけだ。別に仲良くねえ」
「へー……で、そのレグっちは? せんせーとどっか行っちゃったけど、何か知らないの?」
「……知らねえ」
「エルマっちはー? スピーチにも顔出さなかったし、何か知らないの?」
「だから知らねえって」
レグから昨日の一件を聞いたシルバは何となく察しがついているが、黙っていることにした。それは彼なりの配慮なのかもしれない。
「サナさんの可憐な顔に、あの仏頂面は似合わないね~。僕が笑顔にしてきてあげよう」
煌びやかな金髪をなびかせる人間の少年――マサル・ボーロはそう言って、意気揚々と彼女の元に近づこうとする。
そんな彼の長い襟足を、シルバが掴んだ。
「てめーマサル、ラビですら空気読んでんだから静かにしてろ」
「いたいよっ⁉ 僕のキューティクルが傷ついちゃう!」
「ちょっと静かにしてよね。サナがキレたら、私たちまでとばっちり食うじゃない」
騒ぎ出した二人の男子を、黒髪の少女――ウェスト・ニンデルが制止する。
彼女はいつものように気怠く溜息をつきながら、マサルの制服の襟を引っ張った。
「あんた、ただでさえサナに嫌われてんだから近づかないでよ。こっちきなさい」
「ええ⁉ 僕サナさんに嫌われてるの⁉」
「マサル……うるさい……嫌い……」
教室の後ろにつれていかれる彼に向かって、前髪で目元を隠した少女が冷たく言い放つ。
ミエン・ウォー。普段は物静かで無口な彼女だが、同じ人間同士であるマサルやウェストとは仲がいいようだ。
「そんな、ミエンさんまで……みんな僕が美し過ぎて照れてしまってるんだねぐぇ⁉」
ウェストがマサルの襟を強く引く。
そんな彼らの様子を、遠巻きに眺める二人のエルフがいた。
「……なんだか、みんな楽しそうだね、キャロルちゃん。僕らももっと話しかけた方がいいのかなぁ」
人の良さそうな垂れ目をしたエルフの少年――スカー・ジャックは、隣に座るキャロルに話しかける。
「でも、恥ずかしいし……みんなとちゃんとお話しできる自信がないよ……」
対して、おどおどと震えるエルフの少女――キャロル・レッドは、そんな風に俯きがちに呟いた。
「きっと大丈夫だよ。シルバくんなんか、ああいう見た目だけど話してみると案外優しいよ」
「そ、そうなのかな……」
「何か言ったか、スカー! 聞こえてんぞ!」
「ひっ⁉」
猫耳をピクつかせて敏感に自分の名前を聞き取ったシルバが、後方に座るスカーに向かって怒鳴る。
それを聞いたキャロルは、ビクッと全身を震わせた。
「急に怒鳴らないでよ、シルバくん。キャロルちゃんが怯えてるじゃないか」
「ああ? 知らねえよ。つーかキャロルには言ってねえ、お前に言ってんだ! 誰が不良みてーに柄が悪いっだて!」
「そこまで言ってないよ、曲解しないでよ」
「ミエンさん、ほんとに僕のこと嫌いなの?」
「うるさい時は……あんまり好きじゃない……」
「それ一番傷つくやつだよね⁉」
「いいからあんた座りなさいよ、うざいわね」
「ねーシルバっち、レグっちどーしたのー」
「だから俺に訊くなっつってんだろ!」
「みんなうるさい‼」
サナの怒号が、教室に響き渡る。
口々に騒いでいた面々が、水を打ったように静まり返った。
「……」
彼女は再び口を真一文字に結び、不機嫌そうに足を鳴らす。
考えているのは、例の二人のこと。
――昨日のレグとエルマさんの話……レグが呪いの子? エルマさんが実家に迫害されてた?
そう、サナは彼らの話を聞いていた。
レグに担がれて庭園のベンチに運ばれたすぐ後、彼女の意識は、覚醒していたのである。
――……だめ、思考がまとまらない。
魔術師組といざこざがあったことは、すでにどうでもよくなっていた。
そんなことよりも――レグ。
彼が呪いの子であるという事実と。
エルマ。
魔法の使えない彼女が、今までフィール家で受けてきた仕打ちを思うと……サナの中に、言葉にできない感情が渦巻いてくる。
――私は、どうしたらいいの?
友達だと思って接してきたレグ……彼が処刑されるべき存在だと、知ってしまった。
憎悪の対象としか見ていなかった魔術師……その一人であるエルマに、同情している自分がいる。
――ああもう、あのタイミングで目が覚めなければ、悩むことなかったのに!
事ここに至っては、そんな自分の不運さを嘆くしかなかった。
彼女が吊り上げていた目を更に鋭くしたその時。
「お、みなさん今日はやけに静かですねぇ」
落第組の担任、メンデル・オルゾが、にやけ顔を振りまいて入室してくる。
そしてその後ろには、レグとエルマの姿があった。




