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3-1 桃太郎は異世界ファッションデザイナー?

いつもご覧くださりありがとうございます!!

 むかーし、むかし。


 とある山中に、見るからに怪しげな男と女がおりました。


 彼らは激しい運動をしていたのか、全身にかいた汗をお互いに(ぬぐ)っているようです。

 (しばら)くするとゼェゼェと荒かった息も落ち着いたようで、二人は川から汲んでおいた水を仲良く飲み始めました。



 ◇


「……なんだかどこかの誰かに、変な誤解を生みそうなことを言われていた気がするわ」

「ルナは急に何を言っているんだ?」


 俺たちは鬼人との戦闘を終え、ボロボロになってしまった服を着替えていた。


 ちなみにルナは国を追放されて着の身着のまま逃げ出したそうなので、予備を持っていなかった。

 しょんぼりするルナを見かねて、俺様がわざわざ手直ししてやったワケだが……。



「それにしても、テイローがこんなにも裁縫上手だとは思わなかったわ……」

「仕方ねェだろ。俺が居た村にゃ仕立て屋なんていねぇし、たいていのことは自分でやるしかなかったんだよ」



 ルナは丈が短くなってしまった黒のゴシックドレスを少し恥ずかしげに見まわしながら、綺麗に修復されたうえに修飾のアレンジまで施されたことを褒めてくる。


 俺の好みで際どい感じにスリットも入れたから、ルナの綺麗な脚が隙間から垣間見えている。うむ、我ながらいい仕事をしたようだ。



 まぁルナには偉そうなことを言ったが、実はドレスを直すなんて経験はこれが初めてだった。


 そもそも村にそんなヒラヒラしたモンを着ている奴なんて、誰一人として居なかったしな。



 だが、ババア仕込みの裁縫術がこんなところで活きるとは思わなかったぜ。


 俺が修行で服をボロボロにして帰る度に怒られて、自分で直せるように死ぬ気で覚えさせられたもんなぁ……。


 ジジイが『おばあさんは針と糸で森のケモノたちを仕留められるんじゃ』とか冗談か本気なのか分からないことも言ってやがるから涙目になって針仕事したぜ。


 マジでいったいどうなってるんだ、妖狐の尻尾(フェアリーテイル)の連中は。



 俺は一息入れるために竹のコップに注いだ水を飲み干すと、腰に差した妖刀『(バク)』を見やる。


 今思えば、ジジイやババアには本当にいろんなことを教わった。


 結局育ててもらった恩は返せずじまいだったが……それは受け継いだこの刀と技で二人の(かたき)を取ることで、なんとか許してもらおう。どうせ今もきっと、天国で俺のことを見守ってくれているだろうしな。




 ひと通りの準備を終え、十分な休憩を取った俺はルナと一緒に山を下りる。


 俺たちの目的地である鬼之島は(はる)か遠く、しかも海の先ときたもんだ。

 その海に出るまでにも、幾つもの山々を越えなくてはならない。



「さぁ、先は長い。さっさと山を越えて、まずは二人分の兵糧(ひょうろう)を準備するぞ」

「そうね。私も流石に杖一本だけじゃ心許こころもと無いもの。それにテイローに頼りっぱなしっていうのもね」



 たしかに、俺は女性であるルナが必要とするような装備類は持っていない。

 しまったな、だったら俺が居た村に戻って女子衆(おなごしゅう)に何か仕立てて貰えばよかったか?

 さすがに貴族の娘が山の中で何日も過ごすのはキツいよな?



「あ、気にしないで!! これでも野外の活動には慣れてるのよ。川の水さえあれば沐浴もくよくも出来るし、ご飯も自前で調達できるしね!」



 そういえばルナは化身族けしんぞくの犬娘だったな。

 貴族出身とはいえ戦闘能力をみがくのは全国民の義務だったらしく、自分の事は自分で出来るようだ。



 俺たちはお互いの事について話ながら山の中でキノコや山菜を採取していく。

 海があるのは南の方角だが、自分の位置なんて太陽の高さと動き方で確認するしかないのでその足取りはゆっくりだ。


 こうして必要物資を現地調達しながら何度か鬼人との戦闘を繰り返しながら旅を進めていく。

 

 結局予定よりも時間がだいぶ掛かってしまい、俺たちが最初の町に辿りついたのはルナと出会ってから四日ほど経った頃だった。




 ◇


「やったぁ、念願の村よ!! これでやっと久しぶりに人と会うことが出来たわね!」

「おい。その言い方だと、まるで俺が人間じゃねェみたいじゃねーか」

「ふふっ。ゴメンね? でもさ、テイローのその格好……うぷぷっ!」



 ルナが俺を指さして必死に笑いをこらえている。確かに俺の今の恰好かっこうは……。



「お、おい!! あそこ!!」

「ん? ……おいおい、マジかよ」

「早く若ェの呼んで来い!! 熊だ! 熊が出たぞ!!」



 おっと、このままでは不味(まず)いな。初手から警戒されまくってるじゃねぇか。


 俺は着ていた熊の毛皮を放り投げ、何もしないことを表す(アピールする)ために両手を挙げた。



 そう、俺は狩った柴熊の毛皮を大量に背負っていたので、傍目はためから見たら毛むくじゃらのケモノだったのだ。



「なっ!? 熊が脱皮しやがったぞ!!」

「両手を挙げてやがる!! 襲って来る気か!?」

「早くクワ持って来い! 女子どもを森へ逃がせ!!」



 いや、ちょっと待てよ! こっちは武器も構えていない無防備だろうがよ!?


 確かに体格はデケェかもしれないが、俺は立派な人間だっての。


 ちゃんと説明しようと一歩近寄る度に、村人が三歩下がる。



「お、おい。なんで逃げるんだよォ!?」

「ぷぷぷっ。まったく仕方がないわね、テイローは。私に任せなさい」



 むやみに近付くことも出来ずどうしたもんかと困っていると、ルナが俺の前に出てきて村人に話し掛け始める。



「みなさん、待ってください! この人は理由があってこんな姿ですが、言葉は話せるんです!! これでもちゃんと、人としての尊厳は捨てずに必死に生きているんです!! ……たぶん」


「んんぅ? 熊の隣に居るのは女っこかぁ?」

「なんだ、すげぇ別嬪さんだぞ!? ま、まさか浚われたのか!」

「熊と美女だ……」



 ――くっ。随分と好き勝手言ってくれるじゃねぇかコイツら!?


 ていうか俺の時と対応が違い過ぎるだろうが!なんで火に入る蛾みたいにフラフラと自分からルナに寄って来るんだよ!?



「おい、ルナ。聴こえてんぞ。えらく酷い言い草だなァ?」

「ぷっ、ぷぷぷ。だって、仕方ないじゃない。それに事実なんだし? ぷぷぷ!!」



 おほほほ、と何処からか取り出した扇子せんすを口元に当てて、上品なお嬢様面をしている……が、コイツもコイツで、結構酷い格好をしているんだぞ?



 彼女のドレスは旅の途中にあった戦闘でさらにボロボロになり、その度に修繕をしたのだが……如何いかんせん直す生地が無いので、袖や胸元の露出部分が次々と増えていった。


 肩口ショルダー部分なんてもう殆ど残っていないし、腹部も削って他の部分に継ぎ接ぎしている。

 スカート丈もあれから更に短くなり、背中も肌が出てだいぶ蠱惑的に(エロく)なっちまった。



 町の男たちは滅多に見ることが出来ない美少女るなを見て、鼻の下を伸ばしながら大盛り上がりしている。



 まぁ町娘には居ない部類タイプの女だろうしなぁ。こんなんでも貴族令嬢なんだし。


 でもコイツが自慢げに持っている扇子だって、俺が狩りで余った山鳥の羽で作ってやったかなりつたない代物しろものなんだが……。



「おい、ルナ。そんな恰好で襲われたら面倒だ。俺の外套がいとうでも被っとけ」

「にゅふふ~? なぁに、テイロー。もしかして貴方、私の美しいカラダが他の男に見られるのが嫌なのかしらぁ~?」



 俺の言葉を聞いたルナは犬耳をピンと立て、ニタニタと笑いながら俺の目の前をユラユラ揺れて煽ってくる。

 なんだ、コイツは。可愛いな。



「当たり前だろ? お前みたいな美人は男なら放っとかないだろ。いいから、俺の後ろに隠れてろ」

「えっ……?」


「お前はもっと自分が魅力的な女だって自覚しとけ? ……まぁ俺が居る限り誰にも手は出させねェがよ」

「え、ちょっ……待って? そ、それってもしかして……あっ、うん。はい、分かりました……」



 目を大きく開いてアタフタと手を動かしたり、何かブツブツと言ったりしているルナ。


 このままでは話が進まないので、俺は構わず柴熊の滑らかな黒毛で作った外套をルナの肩から掛けてやる。すると黙ってトコトコと俺の背後に回り、隠れるように小さくなった。



 なんだ、大人しくいう事を聞けるじゃないか。よし、これで上手く肌の露出は避けられたな……。



「なんだかお前が綺麗な黒毛を纏っていると気品があるな。まぁそれも元々ルナが綺麗だからなんだろうけどよ」

「はぁっ!? 綺麗って、私が……!? って、これ以上は恥ずかしいからやめてよ! もうっ、テイローのばかばか!!」



 俺の背中をポカポカと殴って来るが、全然力が入っていないし、俺も毛皮を背負っているので全然痛くない。


 そんなルナの奇行を無視することにして、こちらのやり取りを見て固まっていた町民に事情を説明し始めた。




 ◇


 こうして桃太郎とツンデレ犬娘は、無事に最初の町に辿りつくことが出来たようです。


 最初は美女と熊という組み合わせに町人は首を傾げていましたが、桃太郎が鬼を倒すために旅をしていることを伝えると、彼らは諸手もろてを挙げて村に歓迎してくれました。


 桃太郎たちも久し振りに屋根の下で休むことが出来ると分かると、二人して大喜び。

 今回もめでたし、めでたし……?






「グギャ……客人が来たようだね」

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