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4-2 虹色の怪魚のお味はいかが?

いつもご覧くださり有難うございます!

 むかーし、むかし。

 とある海岸で出会った釣り人の案内で、洞窟にある隠れ家にやってきた桃太郎たち。


 勇者の修行に耐えた桃太郎ですら全く歯が立たなかった謎の釣り人は、飄々《ひょうひょう》とした雰囲気で巨大な魚をさばいておりましたとさ。




 ◇


「マジで何者なんだ、コイツはよ……」

「取り敢えず、恐ろしいほど強いってことだけは確かよね」

「ボク……殺されちゃうのかなぁ」



 不安で泣きそうな表情をしているリン。

 たしかに人間ではなく鬼人である彼女は、俺らの中でも討伐される可能性が一番高い。怖いと思うのも当然だろう。



「心配するな。今は俺様の仲間なんだ。俺たちで護ってやるから」

「そうよ、リン! 私は仲間を見捨てたりなんてしないわ!」

「桃にぃ、ルナ姉ぇ……!!」



 狭く暗い洞窟の中で身を寄せ合っていた俺たちは、互いを守り合うように近寄る。

 そんな俺たちを釣り人の男は包丁を持つ手を止めないまま、じいぃっと見つめていた。


 ――かと思いきや、突然洞窟の中で反響するほどの大声で笑い始めた。



「なはははは!! キミら、ホンマ仲がえぇなぁ! まるで家族みたいやわ!」

「……悪いか? 親のいない俺にとって、仲間は家族だ。誰にも傷付けさせやしねぇ」



 俺は先ほどコテンパンにやられた恐怖を振り切るように、少し威圧を込めてそう言葉を返した。


 すると、その言葉を聞いた男は目を丸くさせて驚いた表情を見せる。



「なんや、ガチモンの家族やったんか。そりゃ悪いこと言ってもうたな。スマンやで! ……ところで、キミ。名前は?」



 そういえば出逢いがアレ過ぎてお互い自己紹介もしてなかったな。でもまぁ、お互い敵だと思っていたんだからそれも仕方が無いか。



「俺様の名は桃太郎。そんでこっちが……」

「私はフォークロア王国のウルフハウンド侯爵家の長女、ルナよ」

「ボクは……リンです」



 一通り俺らが名乗ると、さらに男は驚きを露わにする。



「へぇ! オモロいメンツが揃っとるなぁ! それにワイも太郎っちゅーんや。太郎どうし、仲良うしたってや!!」



 俺と同じ古代語で名付けられた“太郎”……自分で言うのもなんだが、この国の古代語を使ったような珍しい名前なのに同じって怪しすぎるだろコイツ。一層油断ならねぇぞ?



「ほらほら、そんな端っこに座っとらんで。料理もできたからコッチ来ぃ。ワイ特製の新鮮刺身盛り合わせや!」



 そう言って大きな葉っぱの上に乗せられて出されたのは、さっき太郎が持っていた虹色の魚そのままの色を残した切り身だった。


 俺らは言われるがまま、一緒に出された木の棒の箸でその身をすくう。

 生きていた時は化け物みたいな見た目でビチビチと跳ねていてから不気味だったが、こうして捌かれた後をじっくり見てみるととても美しく感じる。



「さぁ、あとはコレをつけて食べてみぃ。目ん玉飛び出るくらい旨いで!」



 ボロボロになった木の小皿には得体の知れない黒い液体が入っていた。

 余りにアヤシイので匂いをちょっと嗅いでみたが……ツンとした匂いが鼻を刺激してくる。ジジイにいろんなゲテモノを食わされてきた俺でもちょっとコレは躊躇させられるんだが……。



「ちょっと、私たちに毒でも盛るつもりなの!?」

「そんなことせぇへん! そんなことしたかて、ワイになんの得もあらへんやろ?」



 確かに太郎の言う通りだ。俺たちを害そうって言うなら、そんな回りくどいことしなくたってコイツの剣の腕前なら簡単にできるはずだ。


 ここは取り敢えずコイツの言うことに従って、この黒いのにつけて食べてみるとしよう。



「……はむっ。ムグムグムグ。……ッ!? ムグムグムグッ!!」

「ちょっ……どうしたのテイロー! やっぱり毒だったの!?」



 こ、これは……!!



「う、うめぇ!! 魚だけでもネットリとした甘さと旨さがあるが、この液体をつけると味の奥深さが高まって複雑な味わいをもたらしているんだ!」

「え……?」


「本当だ!! コレ、とっても美味しいよルナ姉ぇ!!」

「リンまで!? ちょっ、私にも寄こしなさいよ〜!!」



 俺とリンが虹色の刺身を口の中にヒョイヒョイ放り込んでいるのを見て焦ったルナも混じって、俺たちは太郎のことなんて放ったまま夢中で食べ始めた。


 そしてあれだけ大量にあった刺身はあっという間に無くなってしまった。



「ふぃ〜。まさかあんな見た目をしたヤツがこんなにうめぇとは思わなかったぜ」

「も、もうお腹いっぱい……」

「ボク、もうこのまま死んでもいい〜」



 予想外の美食に酔いしれてしまった俺たちを見て、太郎は満足そうにウンウンと頷いている。



「せやろ〜? コレを一度でも喰ってしもたら、この海から離れられんようになるっちゅう御伽噺があるくらいなんやで! ……しっかしキミら、よぉ食べたなぁ。んなっはっはっは!」



 自分はほとんど食べられなかったにもかかわらず、怒ることもせずに瓢箪に入った酒をグビグビと飲みながら笑い飛ばす太郎。

 どうやらコイツは敵では無かったようだ。まさかこれから殺すような相手にこんな上等なもてなしなんてするワケがないしな。



「さっきは悪かったな、急に刀なんて向けて。こんな所に人がいるとは思わなくて疑っちまった」

「えぇって、ええって、そらこんな荒れた海辺に居る奴なんてマトモなワケあらへん!! 怪しむのが筋ってもんやろ! んなはははっ」



 顔を酒で少しだけ赤らめながら、陽気に笑い飛ばす太郎。


 強くて器もでけぇ奴だ……だがどうしてこんな所にいるのかっていう疑問は残る。

 それになにか鬼乃島についての情報があったら聞いておきたい。



「その様子だと、まだワイのことを疑っとるっちゅー感じやなぁ。まぁ見ての通りのただの釣り人……って言っても信じられんやろな」

「その強さでそれは流石に無理があるだろ? いいから話せよ」


「せやなぁ……」と頭をポリポリ掻きながら、もう一度クピリ、と酒を呷る。

 程よく酒が回ったのか、仕方なさそうに太郎は自分のことを話し始めた。


「あの島はな、一年に一度だけ潮の満ち引きで歩いて渡れる『三途(さんず)の道』っちゅう陸地が現れるんや。ワイは鬼乃島からその道を渡ってくる鬼人を狩る防人をやるために、この暗〜い洞窟の中に棲んどるっちゅーワケなんや」

「三途の道……じゃあその道を通っていけば俺たちも……!?」



 鬼人たちがあの荒れ狂う海を避けてこっちに来れるんなら、俺らも逆にその道を行けば鬼乃島に渡れるはずだ。よし、光明が見えてきたぜ!



「何となくキミの考えてることは分かるけど、行ったら絶対にアカンで?」

「なっ、何でだよ!? 他に方法が無いだろうが! あの海を泳いでいけっつうのかよ!」


「言ったやろ? 鬼どもがその道を渡ってくるって。一匹は雑魚でも、数万の大群が押し寄せてくるんや。キミなんかの強さじゃあ、あっちゅう間に擦り潰されるで?」

「んなこと、やってみなくちゃ……!」



 俺たちは鬼乃島に行くためにここまで旅をしてきたんだ。

 そんな簡単に諦められるワケがねぇ……!!



「絶対にアカンゆぅとるやろがい!! ワイですらこの海岸で数日間死ぬ気で戦っても精々半分数を減らす程度なんやで? しかも年々アイツらは力が強ぅなっとる。三途の道の名はダテやあらへんのや……」



 そう言って、太郎は震える手で酒を口元に運んだ。

 この男がそこまで恐怖するほどの大群なのか……それじゃあいくら俺たちでも渡るのはいくつ命を賭けたって間に合わねぇじゃねぇか。



「くっそ……それじゃあジジイの仇を取れねぇ……」



 悔しさの余り、腰元にあった形見の封印玉を握り締める。まるで俺のその想いに応えるように、封印玉は紅玉のようにジンワリと赤い光を放つ。


 それを見た太郎は今日何度目かわからない驚きの声を上げた。



「そ、その宝玉はまさか……神が遠い昔に人間に齎したと云われる、鬼神を封印する伝説の封印玉ちゃうんかっ!?」

「ん? 太郎はコレを知っているのか?」

「それは我がフォークロア王国の秘宝よ!? なんでこんな辺境にいる貴方が知っているのよ?」



 俺たちの言葉を聞いていないのか、ジイっと宝玉を見つめ続ける太郎。

 まさか俺の玉を狙っているのか……?



「いや……まさか。せやかてコレさえあれば、もしかしたらイケるかもしれんな……」

「なんだよ、ブツブツと。コレは勇者だったジジイたちの形見なんだ。やるわけにはいかねぇぞ?」



 ブツブツと何を言っているのか分からねぇが、コレを使って鬼神を封印するんだ。力づくで奪おうとしたって全力で抵抗させてもらうぜ。


 だが太郎の口から出たのは予想外の言葉だった。



「これも神さんの思し召しかもしれん。キミ、桃太郎いうたよな……? ワイが鬼神を倒せる方法を教えるっちゅうたら……試す気、あるか?」




 ◇


 鬼乃島へと行く方法が無いと知り、途方に暮れた桃太郎一行でしたが、桃太郎が腰から下げていた宝玉がまさかの逆転の一手になる可能性が見えてきました。


 果たしてその方法とはいったい、なんなのでしょう。


 そして不思議な釣り人、太郎の正体とは……?




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