3-5 子鬼の目にも涙。
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むかーし、むかし。
ある田舎にある村の狩人が若い女を襲い、死ぬまで犯すという非道な行いをしておりました。
その現場を偶然目撃した小鬼であるリンは襲われていた女性を間一髪のところで救い、その狩人を撃退します。助けた女性と無事に村へと帰ったリンは彼女の特殊能力である擬態を使い、人間に成りすますことで村人のように大人しく生活をしていたのでありました。
しかし、そんなリンを村の人たちは次第に疑いの目を持つようになってしまいます。
所詮、人間と鬼人は相容れぬモノ。いくら助けた女性が村長の孫娘だったからと言っても、リンが鬼人であるとバレてしまえば再び外へと追い出されるか、もしくは殺されてしまうでしょう。
どうにかリンを救いたいと願う村長は、村を訪れていた桃太郎に旅のお供として連れて行ってくれるように頼みこむのでした。
◇
「どうか、お願いしますじゃ。このままではリンはいずれ、村の者バレて狩られてしまいます。無力な老人であるワシには、こうして貴方様たちにお願いするしか……どうかっ!!」
もう良い年をした爺さんが杖を捨て、地面に土下座で懇願してくる。
俺らがリンのことを連れて行くと言うまではずっとこうしているつもりなのだろう。何度も何度も額を地に擦りつけ、必死で頼み込む姿に俺とルナは思わず困惑してしまった。
いくら孫娘を救ってもらったとは言え、人間である爺さんが鬼人のためにここまでするとは。
鬼であるリンまでその姿を見て仰天して固まってしまっていたが、突然金縛りが解けたかのように俺らの前に飛び出し、懇願し続ける村長の爺さんに抱き着いた。
「お爺ちゃん! ボクなんかのために、そこまでしないでよっ!」
「いや、リンに感謝しているのは孫娘のことだけじゃねぇんだ。ほら、普段から罠猟で取った肉を村のモンに分けてくれたり、子どもの世話をしてくれたりしてくれたじゃろ? 御客人がた……このリンは面倒見のいい、ただの娘っ子なんですじゃ……どうか、安全なところに連れていってくれんじゃろうかっ!? どうかこの通りっ、どうか頼みますじゃあっ!!」
くそっ、そんな腰の曲がった爺さんが俺ごときにそんな必死になって頼み事なんてしてくんじゃねぇよ……。
ジジイたちのことを思い出しちまうじゃねーか。
「テイロー……」
「――ッチ。しゃーねぇな!! 分かった、分かったよ。俺たちがコイツをどこか鬼人でも生きていけるようなところに連れて行きゃ良いんだろ? やってやるよ!!」
「ほ、本当ですかっ!?」
「いいの、お兄さんッ!? ボク、鬼人なんだよ!?」
爺さんとリンは揃って目をキラキラさせながら俺を見てくるが、そんな期待されたって困る。
「あぁ。だがあくまで俺たちの目的は鬼神をぶっ殺すことだ。その途中でたまたまいい場所があったらって条件だが。それでもいいか?」
「うん! ありがとう、お兄さん!!」
「おい、やめろ。俺にくっつくな!! それに俺は桃太郎だ!」
「よろしくねっ、桃にぃ!!」
「も、桃にぃ!?」
俺の腰元にひっついて、頬をゴシゴシと擦りつけるリン。
額に生えているリンの角が俺の下半身のツノにゴリゴリと当たって痛い。
いや、マジで痛いから止めて欲しいんだが……まぁいいか。
なんだかこうして小さい子どもにベタベタされると、俺に妹ができたみたいで変なカンジだ。
もし俺に妹か弟が居たら、こんな風に甘えられていたんだろうか……?
「っていうか、リン。お前は鬼神の眷属だろう? 俺たちはその鬼人をブチ殺すつもりなんだが、お前はそれでもいいのか?」
鬼人は鬼神の魔力を元に生まれてくる。いわば鬼神は親みたいなモンだ。
それを害そうっていうんなら、フツーは命懸けで止めてきそうなものだが。
「うーん、たしかにボクは鬼神様から生まれた……んだと思う。だけど瞬間の記憶はないし、同族に情も無いよ。それにこれだけお世話になったし、人間に対して恨みとか憎しみがあるわけでもないんだよね」
「そういうモンなのか……? 鬼人っつーのは鬼神の言うことは絶対っていうもんだと思っていたんだが」
まるで働きアリのように、鬼神のためにアイツらは自分の命を顧みることもなく忠実に命令に従っている。だからそれを裏切るような行為はできないのだと思っていたのだが……?
「なんとなく他の鬼人たちが信仰していたからボクも、ってカンジだったから。だからボクは、ボクの大事な人が幸せなら誰が神様でもいい、かな?」
そういうものなのか?
鬼人の価値観というのが良く分からないが……リンがそういうなら、まぁ良いか。
「――と、いうことらしいが? ルナはどうするんだ?」
「え? 私に聞くの!? どうするもなにも、私は最初から賛成よっ」
「そうだったか……? ま、ならいいんだけどよ」
ルナはどちらかというと、リンが可愛いから許していた節があるんだよなぁ。今も俺に抱き着き続けるリンを、どうやって再び自分へ向かせようか画策しているように見える。
「むむむ~。妹キャラも強いわね。リンにテイローを奪われないように気を付けなきゃ……」
「ん? なんか言ったかルナ」
「な、何でもないわよっ!!」
そんなにリンを俺に取られそうなのが不安なのか?
無邪気な笑顔を俺に向けるリンと、歯ぎしりするように悔しがっているルナ。
そんな二人を交互に見て、俺は首を傾げる。
「取り敢えず、リンは俺らで預かる。明日……いや、もう今日か。さっそくこの村を出て行くことになるが、リンは大丈夫か?」
「うん! ボクは元々、自分の持ち物はそんなに持っていないし、別れをしなくちゃいけない人も居ないしね!」
「……そうか。爺さんもそれで大丈夫か?」
俺は村長の爺さんに視線を向けると、無事に恩人であるリンの引き取り先が見つかりそうで安心したのか、ニッコリとした笑顔を何度も何度も縦に振っていた。
「えぇ、もちろんですじゃ。あぁ、良かったですわい……これでワシも思い残すことなく婆さんの元へ……」
「駄目だよお爺ちゃん! いつかボクがまたこの世が平和になったら遊びに来るんだから。それまでちゃんと元気でいてよ!」
「おぉ……リンはワシはもう、リンは孫だと思うとるよ。またいつでも会いに来ておくれ……」
少なくともこの国から鬼神の脅威が無くならない限り、リンが人間と共に仲良く暮らすのは難しいだろうな。
……ちっ。俺が鬼神のヤローをぶっ殺す理由が一つ増えちまったじゃねーか。
「……頑張らなくっちゃね、私たち」
「やることは何も変わっちゃいねーよ。俺たちは向かってくる鬼どもをひたすら狩るだけだ」
俺は欠伸をしながら、村で借りていた家に戻り始める。
もう遅い時間だ。さっさと寝て出発に備えねーとな。
「まったく、素直じゃないんだからテイローは。でもちゃんとリンのことも考えてるって、私は分かってるんだからねっ」
そんなことを言ってルナは俺を追い抜いて家に入っていった。
◇
そして翌日。
俺は住人達が起きる前に、この村を出発することにした。
何の説明もなしに旅人である俺がリンが連れて出て行くのは不自然だし、村長の爺さんもリンとお別れしたがっていたからな。
それに――
「気を付けてね、リン……絶対にまた逢おうね!」
「うん。元気でね……お爺ちゃんとも仲良くね……」
村長の爺さんの孫娘がリンを見送りに来ていていたからだ。
村娘の中でも少し垢ぬけている見た目だが、もう都会への憧れは無いらしい。どうやら狩人に襲われたことで人間の怖さを味わったから、この勝手知ったる自分の故郷で平和に過ごすことにしたそうだ。
「お爺ちゃんも……またね」
「おぉ……りぃいいん……!!」
「ちょっと、お爺ちゃん! そんな泣かないでよ!!」
「りいぃぃいいいん!!」
爺さんは号泣で顔面をグッシャグシャにしている。
この場で誰よりもリンとの別れを惜しんでいるのがこの爺さんだった。
「も、ももたろ殿ぉ~、リンを……リンをよろしく頼みますじゃぁああ!」
「わかった、分かったから抱き着くんじゃねぇ! 鼻水を俺につけるな!」
なんだよ、もう。本心はそんなに村から出したくなかったのかよ……。
まるで実の娘を嫁に出す父親のような感情の高まりようだ。
「ちゃんとリンちゃんは私たちで面倒をみるわよ。だから安心しなさい、お爺さん」
「ルナ殿も……ぐすっ。分かりました、爺は落ち着きますじゃ」
「まったく、恥ずかしいったらありゃしないよ。それにお爺ちゃんにはちゃんと実の孫がまだいるんだからしっかりしてよね、お爺ちゃん」
ルナと孫娘に宥められ――孫娘にネコのように無理やり引っ張られながら、大人しく一歩引いた爺さん。
よし、それじゃじゃあさぁ、俺たちも村の住人達が来てしまう前にとっとと出発しよう。
「よし、それじゃあ海に浮かぶ鬼之島に向かって改めて出発だ!」
「張り切っていくわよ~!! 準備はいい? リンちゃん!」
「うん! ボク、いってきます!!」
「「いってらっしゃい!!」」
◇
新たに食べたものに擬態する能力を持つ鬼人、リンを仲間に引き入れ、桃太郎たちは朝日にを背に更に西へと歩き始めました。
種族は違えど、優しい心を持つリンを桃太郎とルナは可愛がりながら旅を続けます。
行く先々で情報を求め、リンの安息地となる場所を捜し歩きましたが――なかなか鬼が住むのに適した土地は見つかりません。
そうしているうちに鬼之島へと繋がる海辺、通称『彼岸への浜辺』へと辿り着いてしまいました。
そしてそこで桃太郎達は、とても驚くものを発見したのです――。
これで第3章も終わります。
次回は鬼之島編……?
もし面白い!ルナ可愛い!リンもっと出せ!などなど、ご感想がありましたらお気軽にお願いいたします!
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