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魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。  作者: iBuKi


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第24話 さっさと片付けさせろ。

 



「種は撒いた。クシャナ嬢の報告を」


 魅了耐性プログラムを終え、次は実践だとこちら側の手の者を三人ほどクシャナ子爵令嬢のもとへと送り込んで数日――――

 そろそろ報告が溜まったことだろうと、クロードは促す。


「はい、こちらに」


 待ってましたとばかりにマルセルが立ち上がり、中厚の報告書をバサリと執務机へ置いた。

 クロードは速読が得意だ。マルセルが読み終えるのに一時間近くかかった詳細な報告を、10分ほどで目を通す。


「男と見れば肉体関係を結ばないと死ぬ病気でも患ってるのか?」

 細かいところまですべて目を通し終えたあとの最初の感想だった。

 それを語るクロードの顔はひどく苦い顔だ。

 苦い顔であっても美しいというのは罪だなとマルセルは思うも、ひどい中身を知っているゆえ、その顔を曇らせている。


「若さゆえの有り余る欲でしょうね。女性だからといって性欲が男より少ないわけではありませんし、人それぞれで」

「経験のない奴がそういう説を振りかざすと眉唾だが……冷静に考えて、こいつは異常だ。何人相手にしてるか読んだか? 一日で八人以上だぞ。細身の令嬢でありながら底なし体力の化け物か。実は女装した男だと言われたほうが納得するくらいだ」


 マルセルは頷きながらも策を口にする。


「頻繁に相手を替え、特定の男がいないようですから、割り切った身体の関係目当てで近づくのが一番怪しまれません。体の関係を結びたい男を装って身体を触りながら装身具を探し、目当てを見つけて即座に睡眠薬を仕込んだ針で寝かせる──といった手が使えます。もちろん見つけられなくとも針で寝かせますので、望まぬ関係を強制することはありませんし」


 カイとユクスの顔が浮かんだ。見目も所作も随分と磨かれた報告を受けている。

 クシャナ令嬢は既に高位貴族へと手を伸ばし始めている。

 送り込んだ者たちを体の関係まで発展させるつもりはない。

 国内貴族としても考えたが違和感を感じ余計な追求して来る者もいないとも限らない。なるべく秘密裏に動くことを考慮して、カイとユクスには外国籍の仮爵位を与え、学園へ潜入させるつもりだ。


(囲って違和感がなく、長時間傍に置けるには……)


 学園ではクシャナ子爵令嬢の周囲に魅了された子息が多すぎ、三人だけで側に付けるには昼休みでは時間が短い。

 放課後も彼女は男を侍らせて行動しているらしいが、大体が買い物が多く人目がある。貴族御用達の飲食店を貸し切って個室でとも考えたが、それはまだ今はいい。

 授業不参加時に魅了された子息と過ごすらしいが、相手は不特定。

 他を蹴落として選ばれその時間を作るには、クシャナ子爵令嬢との距離をもっと縮めねばならない。


(高位貴族への被害が広がる前に早く片付けたいが――ああ、そういえば)



 クロードは近々開かれる学園主催のプレ夜会があったことを思い出す。

 全学年の生徒が参加の、年に一度の大規模な行事だ。下位も上位も爵位に関係なく集う――好機だ。


(送り込む連中を着飾らせ、目に留まらせやすくするか)


 五人で囲んで他を寄せ付けず、そのまま子爵家へ送るのを装って連れ去り、指輪に仕込んだ睡眠薬の針で──というプランが頭をよぎる。

 他の男たちをクシャナ子爵令嬢から話す人員を用意しないといけないな。

 緊急を装ってその場を離れ別室へと誘導するには――家絡みが一番手っ取り早いが。


「あー、いっぺんに終わらせて、サフィとイチャイチャしたい……」


 椅子にもたれて大きく荒い息を吐く。

 苛立ちが漏れたのか、口にするはずのなかった言葉はかなり限界を迎えて本心を吐露していた。


「もう、処刑でいいんじゃないか? 何組もの貴族間の政略婚約を滅茶苦茶にした罪でいいな。ああ、そうしよう。詐称一切なしの事実だからな」


「殿下!?」

 非道な発言に耳にしたマルセルが慌てる。

「あ、すまん」

 申し訳無さ成分0の声色で謝罪を口にする。


「処刑発言は軽々しく口にしてはいけませんっ」とマルセルはたしなめるが、クロードの吐露は切実な願望に近い。

 サフィリーン嬢以外の人間に対する思いなど皆無。

 この人はそうだよな、と再度理解したマルセルは無言で書類へ戻った。


「はぁ……サフィに会いたい……」


 そう呟きながら、クロードは作戦の詳細を紙に書き連ねる。

 睡眠薬塗布の針を仕込んだ指輪の調達、参加者の手配。

 クシャナ子爵令嬢は「美麗な子息」を非常に好む傾向があるらしい。

 上位下位と身分や金より、まずは顔だそうだ。

 とするならば、学園に送り込む者たちは徹底的に見目麗しく装わせねばならない。


 書き終えるとペンを置き、マルセルを呼び紙を手渡す。目を通したマルセルは短く頷いた。


「これで終わらせたいところですね」

「ああ、もう本当に心の底から目障りだからな」

「私もそれには同意しかありません」

 二人の男は頷き合う。 自分たちに被害はないが、貴族の関係をごちゃごちゃかき乱されても困る。

 ましてサフィがあの愛らしい心を痛めて心配している。 サフィの憂いはすべて解決しておかねば気が済まない。


 クシャナ子爵令嬢のすべてが暴かれ魅了魔法関連の禁忌を犯したのであれば、恐らく極刑だろう。 だが、禁忌ということは、あの小娘一人が出来ることではない気がしてならない。 まして他国の王族や自国の高位貴族ならまだしも、下位のたいして力もない子爵家の小娘だ。


(血生臭いことにならないといいが・・・・・・さっさと片付けさせろ)


 最悪を想定しつつ、準備を整えるべきだとクロードは考える。

 マルセルを見送り、執務室を出る背を見つめながら、その決意を固めていた。



ご覧下さいまして有難うございました。

他サイトに掲載している分をすべて投稿しましたので、ここから不定期投稿となります。

今完結に向けて連載している作品が落ち着きましたら、この続きを書き溜め次第投稿します。

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