15話 クロードはヤバイ令嬢ホイホイ?
魔法大国である国の学園という事もあって、座学でクラス分けではなく、魔力量でクラス分けがされる。
入学する生徒の魔力の今後伸びるであろう得意な属性であったり、魔力そのものの質などを詳細に調べるわけではない。
入学が決まった際に学園職員が生徒本人の住まいに直接赴き、そこで魔力量を調べる事のできる魔導具での検査をするのだ。
血・もしくは唾液をガラスプレートのような物に垂らし、専用の魔道具に差し込むと、その魔道具に組み込まれた魔力石が魔力量によって色が変わるというシンプルなもの。
サフィリーンは最上位を示す金色に輝いた。
代々魔力量は突出した量を叩き出している王族であるクロード皇子も金色である。
この魔導具では色変えで判断してランク付けされるため、細かい数値はわからない。
魔力の質や属性までは判断出来ないため、ただ多いか普通か少ないかのざっくりとしたクラス分けがされるのだった。
Sクラスの教室で魔法の座学を学ぶクロード皇子と私。
当然のように席は隣同士。
隣同士でも足りないとばかりに座っている椅子までぴったりくっつけて、もちろん身体もぴったり・・・・・・肘も膝も密着である。
いくら婚約者とはいえ学生の身で少しやり過ぎである。
クロード皇子は超ぐいぐい来るタイプなのだと、今までの皇子で理解してたつもりだが、更に日々更新されて実感している。
そんな日々を過ごしていれば皇子のアプローチにも慣れ・・・・・・る訳もなく。
今日も今日とて無心を心がける私。
破廉恥なのは皇子であって、決して私が望んだわけでも協力しているわけでもないのだと!
私達のそのような仲睦まじいのか破廉恥なのか微妙なところを見て、たくさんの噂も生ぬるい視線も雨のように降り注いでいるが、毎日激甘な婚約者の猛攻に否定するだけ煽るだけである。
それらすべて冷静に考え始めたらこれから学園に通い続けられる気が微塵もしないので、クロード皇子の鉄より堅いメンタルの強さを見習いたい。
そんなクロード皇子と言えばここ半年くらい前からだろうか、もっというなら入学してから落ち着いてきた辺りからかな・・・・・・?
元から蜂蜜をぶっかけて驚かせてくるタイプだったけれど、そこへ粉砂糖まで振り掛けるようになってきた。
彼には遠慮というものを一度教えてさしあげなければならないかもしれない。
あの顔の良さに絆されて、これくらいならいいかな? を僅かに譲った瞬間に予定の数倍入り混んでくるタイプである。
一般的な婚約者同士ってこれほど人目を憚らずイチャイチャするものじゃないのでは? と考えていたら、婚約者と学園内でイチャイチャしてるのを見かけることがぐんと増えた。
アレは絶対にクロード皇子の影響に違いない。
クロード皇子が羞恥心ぶっ飛んだ人だから、今まで距離感を保って礼儀正しく接していた人たちのイチャイチャのハードルが下がってるのかもしれないわ・・・・・・風紀委員仕事してほしい。
クロード皇子は顔が良い。ついでにいうなら何頭身なんだと驚くほどスタイルもいい。
細身でナヨナヨした中性的なタイプではなく、腕も腰も脚も引き締まった強く靭やかな肉食獣の美しさである。声は低くもなく高くもないが美声だ。たまに私関係のことでドスが効いてる時があるが、普段はいつまでも聴いていたような優しく甘い声だ。
なにより直系の王族であることから血がとんでもなく尊い。
地位も名誉も権力もあるから、次期王確定のこの人と婚姻出来れば国で一番のレディである。
隣を望む努力したところでと諦めた下級貴族令嬢も、望んでチャレンジだけでも出来る地位にいる上級貴族令嬢も、老いも若きも皇子に見惚れる。
そんな初恋泥棒のような皇子の婚約者になった私に対して、立っているだけで目立つ皇子が破廉恥もいいとこな激甘な態度で接している様子は嫌でも目に付くものだ。
そんな破廉恥極まりない溺愛ムーブを撒き散らすクロード皇子を見た令嬢たちは、皇子と同じ学園に入学するのだから、学園生活の中であわよくばを夢見たことだろう。
隣に余計な私がいるわけで・・・・・・入学式から刺さるのは嫉妬と憎悪の視線である。
分かっていたけど女の嫉妬は怖い。
しかし現実を突きつけられた令嬢達は、入学から半年もするとおとなしくなった。
いろいろと察するしかなかったのかもしれない。
だって・・・・・・どこにも付け入る隙がないと気付いてしまった。
クロード皇子は常に私とセットで一緒にいるのだから、私を呼び出そうにも嫌味を言おうにも体は無理でも心を傷つけたかったろうに、そのチャンスがないのだ。
波が引くようにまともな令嬢たちは婚約を次々と決めていったのである。
それでも、信じない!諦めない! とずーっと懸想し続ける猛者は居て――――
こんな破廉恥極まりない激甘攻撃を間近で強制的に目にしていても、クロード皇子にグイグイくる猛者令嬢というのは、それはまあ・・・・・・色々とヤバイお方しか残っておらず。
とある日のお昼休みも――――
「まぁ、皇子殿下ったら、随分とおおっぴらにお戯れになるのね。侯爵家のご令嬢ともあろうお方が、あんなに大胆なことをなさるなんて、わたくしには真似できませんわぁ」
「そうですわね、わたくしには恥ずかしくてとても無理ですわ。ご自身の身分も顧みず、人目もはばからずに皇子殿下を誘惑するなんて・・・・・・。よほどご家門に自信がおありなのね?」
「殿下の前ではあんなに可愛らしく見えるのに、裏では計算高いと専らの噂よ。化けの皮が剥がれるのもそう遅くないのではないかしら」
「いくら皇子殿下のご寵愛を一身に受けたとしても、それだけではこの国の社交界では生きていけませんわ。皇太子妃の地位に相応しくあれないのなら、潔く身を引かれるのが当然ですわ」
「いつも皇子様にべったりで。皇子様に近づけないように意地悪してるんですよぉ。嫉妬は見苦しいですよねぇ」
一人二人程度かと思いきやそこそこ居る猛者たち。下級も上級も選り取り見取りですよ。
色んな貴族階級の猛者令嬢と会えて嬉しいわ・・・・・・とはならないが、レストルームへと来た私の一人になれた僅かな時間を狙ったかのように来るのはやめてほしい。
ひとりになったからといって、望む望まぬに関わらず私は次期皇太子妃である。
私がパッと見で一人だからといって、本当に一人な訳ではない。
表立って見えない所にも王家の影が付けられてるのわからないんだろうなあ。
下級貴族は知らないかもしれないけれど、侯爵以上の上級貴族は各家で所持している基本的には諜報活動メインの専属の影も居たりするんだから、影の存在は知ってるよね。
流石に当主でもない者に護衛まで付ける家は、よほど恨みを買ってる家くらいでほとんどいないだろうけど。
私も公爵家だから自分の家が所持している専属護衛の影がいたよ。
現当主の父様と、次期当主の兄しかつけてなかったけど。
王族なら絶対付けてるだろうことは理解出来るだろうに。
そんなことも理解出来なかったから今は学園にはいなくなっちゃったんだろうな・・・・・・。
クロード皇子が影からの報告受けてそっとしておく訳もないだろうし。
(あ、そういえば、あの方たちも・・・・・・)
そんな半年間、猛者令嬢達の中でも特に突き抜けていた数人を思い出した。
私の事を殺意に満ちた目で睨み付け、どこからか湧いて来て嫌味だらだら垂れ流しながら目の敵にしてきた隣国から留学してきた王女も簡単に諦めなかった。
あの方の留学期間は1年間だったはずだけど、1か月で帰国されたんだよね。
大慌てで帰国されたようだったから、1年後に開催されるはずだった帰国される姫を送り出す壮行会を兼ねた舞踏会も立ち消えたようだし。
貴族の序列を無視出来る強心臓のお花畑をお持ちで、皇太子の婚約者を貶めるような酷い発言や態度の数々から、己の家への未来を顧みないという伯爵・子爵・男爵と取り揃えたご令嬢達も、諦める事を知らないファイターだった。
クロード皇子に執着する人って、ガッツがあってヤバイ方向に突き抜けて凄いよね。
階級的に皇太子妃は狙わないけど側妃なら狙えると思っているから、能力がずば抜けた知的な方達というより美しさと元気な子どもを産める体があります! でアピールする令嬢が多い気がする。
側妃がダメなら愛妾とかね。公妾制度はこの国にはないらしいから。
王侯貴族の何が嫌ってコレだよね。
側妃とか愛妾とか持とうと思えば持てるってところ。
勿論、貴族家のパワーバランスとかあるだろうから、側妃に関しては誰でもって訳ではないだろうけど。
それでも前世の価値観がある私は嫌ーな気持ちになる。
だから皇族の嫁になんてなりたくないんだよ。
基本的には一夫一妻制であっても、世継ぎとか云々で第二の妻を娶る。
男女の愛は不滅ではない。
人の気持ちは変わることもある。
期待しすぎて信じすぎて相手に沼っちゃったら、万が一がある。
それはもちろん、どこに嫁いでもある可能性。
でも、彼の地位とスペックはとんでもない美女たちに常に狙われ続けるといっていい。
クロード皇子の嫁になるということは、嫉妬する自分を受け入れ続ける日々だろう。
皇太子妃とか重責に塗れた地位もプレッシャー半端ないし。
私ってチョロインなんだろうなー。
ちょっと絆されてきちゃってるんだから。
・・・・・・そうだ。皇子が優しくて甘すぎるのが悪いんだ。