ばぁばと初めての場所
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「……む、むむう……こ、ここは、どこじゃ……」
目が覚めると、そこに広がっていたのは一面の草原。その先に湖のようなものが見える。燦々と照りつける太陽光が、湖の水面に乱反射してより一層輝きを増している。
梅田麗子は仰向けに横たえた体を起こし、しばらく辺りを見渡すと……
「成程ねえ……。これが転生した先っちゅう訳かいな……」
……どうやら、もうこの事態を飲み込んだらしい。
周囲に人はいない。あるのは草っぱらと湖畔、聞いたことのないような奇妙な鳴き声。
そして、彼女の足にちょこんと座っている、一匹の三毛猫。
…………そう。黒と白、そしてオレンジの三色の体毛を持つ、あの三毛猫である。
「おやおやまあまあ……お前さん、何たって私の足でくつろいどんの?」
普通ならば、「ちょっと何私の足で寝てんのよヘンタイ!」とか、「いやー可愛い!!ねえねえ?お名前はなんていうの?」なんて言うのがセオリーなのだろうが、年寄りの余裕という奴だろうか。すんなり状況を受け入れ、目前の猫ちゃんに煮干しでもあげそうな勢いである。
「……うーーん、むにゃむにゃ…………はっ、ここは!?わ、ワシ、うまく麗子さんについていけたかの!!?も、もしかして、あんな強引に転移して、変なとこに飛ばしちゃったかの?!ああああああ麗子しゃん……ワシの神様はいずこ……」
「あら、喋る猫さんなんて、珍しい子もいたもんだねぇ……。それにその口調、もしかしてあんた、さっきの神様じゃないのかい?」
「え!!れ、麗子さん!?あ、あんた……」
……猫が喋っただけならばともかく、あまつさえ先ほどまでちんけな格好で胡散臭い転生の話をしていた神様がその正体だなんて、正直にわかには信じがたい現象である。
だが、彼女の達観した性格はそれをもすんなりと受け入れ、おもむろに猫を抱き上げると自らも立ち上がり……
「……こんなばあさんに付いていくだなんて、あんたも物好きねえ……。何だかよくわからない所に来ちまったみたいだけど、あんたがいれば、何とかなる気がしてきたよ……」
「れれれれ麗子さん!!そのお優しい言葉はともかくっ!そのお顔で言われては、ワシ鼻血が……ごぶぁ……」
そういうと、本当に鼻から血を流して気を失ってしまった。心配する間もなく、彼女はある異変に気づく。
「……あら?私、こんなに細い指をしてたかの……?それに、何だか背丈も伸びて……はて、これはまるで……」
麗子さんは自身の身体を手探りで探ってゆく。
服装は先ほどと同じはずだが、どう考えても丈が伸びている。先ほどまでの曲がった腰はどこへやら、ぴんと伸びた背筋が印象的だ。
少し短くなった着物の丈の先に、すらりと細い足が伸びている。
着物越しでも膨らみがはっきりと分かる豊満な胸に、帯の締めのせいか、より一層細さが強調されたお腹周り。しわの走っていた地肌は、シルクを連想させるきめ細やかな色素の薄い美肌となっていた。
「……!こりゃあ、まさか……?」
こればかりは彼女も驚いたようで、思わず水辺に向かって駆けだしていた。久方ぶりの風を切る感覚を全身で感じつつ湖に駆け寄ると、おもむろに水面を覗き込む。
そこに映っていたのは、しわくちゃの白髪のおばあさんの顔ではなく……
たれ目だがぱっちりと開いた黒の瞳に、少し高めの整った鼻。桃色の唇はふっくらと膨らみ、程よい湿気を含んでいる。
髪も白髪ではなく、白金を連想させる銀髪となり、水面に反射した日光に当てられて優雅に煌めいている。癖っ毛のショートボブな髪型も相まって、若々しくもどこか大人の雰囲気を帯びた雰囲気を醸し出している。
「こ、この顔は……か、髪が変な色になっとるが……わ、私は……!」
詰まる所、御年86歳であられる梅田麗子は、異世界に転生しそして……
華の20代。彼女が女学生だった頃の容姿に、若返ったのである。
これからもよろしくお願いします。ら