9 スキル
ハルが休憩所と言っていた場所は、あそこから歩いて1、2時間の場所にあった。
まだまだ森林地帯は続きそうだが、道のそばに石造りの建物が建っていて、そこに町の兵士らしき人たちが何人か常駐しているようだ。
中に入ると少し広い場所があって、そこに木製のイスやテーブルがいくつか並んでいた。
俺とハルはその一ヶ所に座り、ハルが兵士の人に話をして、分けてもらった水と食べ物を並べる。
まあ、食べ物といっても日持ちのしそうな固そうなパンと干し肉だけど、贅沢は言えない。
「すまん、この分もいつか必ず返す。いただきます」
ハルに感謝して、一気に食べ始める。極限に腹が減っていたせいもあるだろうが、めちゃくちゃうまい。
「うまい、ありがとう、ハル」
俺はこれらを分けてもらうときに、ハルが兵士にお金らしきものを渡しているのを見ていた。
最初に出会った子がハルで本当に良かったと思う。
「そんなに気にしないでください。それより、その人形って何か上位の精霊族でも宿っているんですか?」
メシアを見ながら聞いてくる。
「いや、すまん。全くわからないんだ」
聞かれた本人であるメシアは、マナが足りないとかで頭の上で寝ている。
「そうなんですか。それもお忘れになってしまってるんですね」
出会ったときの話をしたらややこしいし、よく考えればわからないことを覚えているのもおかしい。これも忘れているでいいか。
ただ、だんだんと取り返しのつかないことになってないか心配になってきた。
「そうみたいでな...ハルにはこいつになんか心当たりでもあるのか?」
「いえ、それはないんですけど...」
「けど?」
「別に隠すようなことではないのですが...最初にお会いしたときに、僕のことをアカメ族だと見抜いたのが気になっていたので」
そういえば、そんなことを言っていたな。自分に酷いことをしたとかなんとか。
「僕が力を使ったのは一瞬だったのに、よくわかったなと思いまして。精度の高い『探知』のスキルを持っているとなれば、精霊族かな、と」
腹がふくれ少し落ち着いてきて思うが、アカメ族、精霊族と、さすがは異世界とも言うべき聞き慣れない言葉が会話に並んでいる。そんな中でさらに異彩を放つ言葉。それは。
「スキル...」
スキルってレベルアップとかで覚える、あのスキルだよな。まさか俺も使えるのか!?考えたらなんかワクワクきてきた。
「どうかしました?」
突然黙った俺にハルが覗きこんで聞いてくる。
「スキル!!とは!?」
「ひゃわっ、び、びっくりさせないでください。き、急にどうしたんですか?」
「...あっ、すまん。つい、テンションが上がって」
「いったい何にですか?」
「いや、スキルに」
「何故です?」
「俺にも使えるのかと思って」
「使えないんですか?」
「使えない...と、思う」
「よく今まで生きてこれましたね。もしかして、それもお忘れなのですか?」
「...まあそうかも。で、スキルってなんだ?」
「スキルは自身に内在するマナを基に構成する力のことです。種族固有のものと、個人の2種類があって、個人のほうは理論上どのスキルも習得可能ですが、その人のマナ総量や種族によって得手不得手があります」
「ほうほう」
「ちなみに『探知』はマナを探知する、危険察知のためのものです。旅人や冒険者など外に出る人ならば、誰もが真っ先に習得する個人スキルですよ」
「へー、どうやって覚えるんだ?」
「どうやって、ですか?感覚としか言いようがありませんが」
「感覚...どんな感じの?」
「そうですね。自分のマナをうすーく伸ばしていく感じですかね」
「自分のマナ...」
なかなか複雑だな。ウィンドウのボタン1つでぽんっと覚えれないのか。
「深呼吸して心を落ち着かせて、目を閉じて感じるんです。自分の中にあるマナを。すぐわかるようになります。僕も初めはそうやって練習しました」
「そうなのか」
言われた通りやってみるがよくわからない。
「『探知』を習得できれば、マナの内在する生き物ならば、目を閉じてもその存在や動きがわかるようになります。今後の生活に役立ちますし、頑張りましょう」
「わかった」
いつの間にか先生みたいになっているハルの言葉を聞きながら、魔法みたいなの使ってみたい、というよこしまな考えのもと、少しずつ練習を開始する俺であった。
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