6 少女
「大丈夫ですか?」
少女が俺に近づいてくる。
その白い肌とは対照的な黒いドレス、腰より少し上くらいで切り揃えられたストレートの黒髪、黒い瞳。
線の細い儚げさ。
美しいような可愛いような。
見た目からは、俺の半分くらいの年に見える。
そんな少女に心配される俺。単純にその様子
だけならちょっと情けなく見えるかもしれない。
ただ、少女はあの大ウサギを一瞬で切り裂いた。
その華奢な体のどこにそんな力があるんだというんだろう。
でもまあ、異世界なんだからそこまで驚くこともないか。
少女の近づく気配を感じながら、俺は大の字で寝転んで呼吸を整える。
「はあぁ、はあ、はあ...あ、ありがとう、大丈夫」
「災難でしたね。旅の方ですか?」
差し伸べられた手を掴むと、ふわりと体が起こされる。
細い腕でこの力、違和感がすごい。
身体能力強化みたいな魔法でもあるのかもしれない。
助かった、ありがとう。お礼を言おうと、口を開きかけた瞬間、頭の上のメシアが吠える。
「てめぇ!さっきの力、アカメ族だな!俺様にしたこと忘れてねぇからなぁ!!殺すぞ、おらぁ!!」
「お、おい、止めろ、急にどうした?」
慌ててメシアを頭の上からひっぺがし、黙らせる。
ほら、少女が目に見えて引いてるじゃないか。
「急にどうした?何かあったのか?」
一時的に少女に背を向け、小声で確認する。
「あいつの先祖がよぉ、昔俺様に酷いことしやがってよぉ...許せねえ」
「あぁ...確かにそれは許せないな...ただ、あの子はメシアに直接酷いことしたわけじゃないんだろ?」
「...そうなんだけどよぉ」
「じゃあ、とりあえず落ち着いてくれ」
「けどよぉ」
「まあ、まかせろって。あとで、色々面白いことになるから、黙っててくれよ」
「...面白いことってなんだよ?」
「それを言ったら面白くないだろ」
「...ほんとだな?」
「相棒だろ?信じろって」
「わかった」
よし。こいつの御しかたがだんだんわかってきた。
メシアを黙らせたところで、少女に向き直り笑顔を作る。
「すまなかった。危ないところをありがとう。助かったよ」
怪訝そうにこちらを見ていた少女だが、とりあえず俺の言葉に気を取り直したようだ。
「いえ、お気になさらないでください。お怪我はありませんか?」
なんて優しい良い子なのだろう。見ているだけで疲れが癒えそうだ。
「ああ、おかげさまで無傷だよ」
「そうであれば良かったです。この辺はこの季節に森のウサギが発情期に入るため、人も動物も見境なく襲うのです」
「そうだったのか」
ということは、俺はエサではなく性の捌け口として見られていたわけか。なんか、色んな意味で危なかった。
初めてがウサギなんて酷いすぎる。
「よく単身の旅の方が襲われているみたいなので、お気をつけてください」
「ありがとう。肝に命じておく」
「いえ...それで、あの...申し訳ありません、1つお聞きしたいのですが...」
言いながら、少女がチラチラと俺の頭上で黙ったメシアを見る。
まあ、そりゃあ気にるわな。
「なんだ?」
聞きたいことはなんとなくわかるが、とりあえずしっかり確認しておく。
「その言葉を話す、きもちわ、趣味の悪い人形は何ですか?」
この子いま完全に気持ち悪いって言いかけて言い直したよね。
ただ、言い直したわりに意味が変わってない。
本音駄々漏れのなかなかの毒舌。
個人的には嫌いではない。なのだが、
「んだと、こらぁ!!」
その言葉にぶちギレる奴が一人。
「話が進まないからやめてくれ」
そんなメシアを、再び宥めて黙らせる。
「ごめんな、見た目はこんなんだが良い奴なんだ。俺が代わりに謝るから、許してやってくれないだろうか?」
「謝るだなんてそんな...こちらこそごめんなさい。僕その人形を怒らせるようなこと何かしてしまいましたか?」
「そんなことないよ。こっちが勝手に勘違いしてるだけだから、気にしないで」
答えながら思う。この子、今僕って言ってましたね。この見た目で僕っ娘なんだ。へー...いいね!アニメとか漫画の僕っ娘って可愛いよね。
まだまだ序盤ではありますが、これからも順次更新していきます。
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