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4 人形

 あれから俺は悪魔に連れられ何かに乗せられていた。


 がたんがたん、と体に振動が伝わってくる。車にしては振動が激しすぎる。乗ったことはないが、馬車のようなものだろうか。


 なんとか身動きを取ろうとするが、ジャリジャリと鎖が擦れる音が少し感じられるぐらいで絶望的に動けそうな気配はない。


 これはいったいどういう状況なんだ?

 

 考えてもわからないが、やばい状況なのは間違いなさそうだ。

 

 いったいどうすれば...


 ん、なんだ?


 なんだか突然、頭の後ろがもぞもぞする。


「ぷはっ、あぶねえ。マナを使いきりかけた。なんで毎回消費量が違うんだ」


 暗くて何も見えないが、もぞもぞしていたところから声が聞こえた。


「な、だ、誰だ!?」


「お、召喚は成功したみたいだな、重畳、重畳。ちょっとマナが足りねぇんだ、それいただくぜ」


 こちらの言葉を無視して話を進める何か。


 おい、聞いてくれ!あと、それってなんだ?


 言葉にしようとした瞬間、拘束が解け体が軽くなる。 


「えっ、お、おお!?急に鎖がなくなった!なんでだ!?」


 勢いのままに体を起こし自由になった両手の感覚を確認する。


 そのときだった。大きめの石でも踏んづけたのか、タイミング悪く大きく馬車が跳ねる。


「うわっ!?」


 もちろんシートベルトなどないこの状況。体が一瞬浮き上がり、そのまま馬車の外へと投げ出される。


「し、死ぬ...」


 1日に2回も死ぬと思ったのは初めてだ。


 なんとか頭だけはと思い、無我夢中で頭をガードして体を丸める。


 それが功を奏したのか、地面へ直撃という大惨事を回避し、それなりの衝撃の後そのままゴロゴロと転がり何かに腰を強打して、俺は止まった。


「い、痛い...」

 

 月明かりで、やっと少しだけ暗闇から解放された視界で見えるかぎり、俺の回転を止めてくれたのはどうやら森の中の大木だったようだ。


 もたれかかるようにして、その場に座り込み、体の痛いところを確認する。


 運が良かったのか普通に動く。折れたり切れたりしているところはなさそうだ。


「おい!」


「うわっ?!な、なんだ?」


 突然頭の上から声がした。


 何も考えずに反射的にはたき落とす。


 目の前に落ちてきたのは、何か人形のようなものだった。がらの悪い呪いの人形のような見た目で少しきもい。

 

「てめぇ!いきなり何すんだ!!」 


 そんな人形が普通に立ち上がり、すごい剣幕で怒ってくる。 


「しゃ、喋ってる...人形、だよな?」


 持ち上げて確認する。人形で間違いなさそうだ。が、手のなかで暴れている。これは生き物なのか?


「おい、何してやがる!下ろせ!」


「す、すまん」


「ったく、今回の奴もパッとしねぇな」


「...どういう意味だ?」

 

「そのまんまの意味だ」


 なかなか酷いことを言う人形である。ただまあ、ずっと言われてきたことなんで、慣れていると言えば慣れている。


「パッとしてなくてすみませんね」


「まったくだ」


 この人形、容赦ないね。


「なあ、お前って生き物なのか?」


「あん?今、お前って言った?何上からもの言っちゃってくれてんの?俺様がお前を喚んだんだから、俺様が主でお前は下僕。OK?」


「全然OKじゃない。あと、喚んだってどういうことだ?」


「お、意外にも生意気じゃねえか、おもしれぇ。なら対等でいいぜ、相棒」


 こいつ、なかなか一方的なやつだな。


「...ありがとう。それで喚んだってのは?」


「俺様がお前を召喚したってことだ」


 はあ...?どういう意味だ...?俺を召喚した...?


「...なんかのマンガの話か?」


「マンガが何か知らねえが、お前の話だぜ」


「...ここは現実なのか?」


「たりめぇだろうが、何寝ぼけたこと言ってんだ」


 現実...なのか。ベランダから落ちてから現実的じゃないことしか起きてないんだが、現実なのか...


 ただ、確かにさっきから体が痛い。少なくとも夢ではなさそうだ。


 召喚って、マンガでよくあるあれだよな?


「...ここって異世界なのか?」


「よくわかってんじゃねぇか」


「...何で俺を召喚したんだ?」


「俺様の暇潰しに」


「はあ!?」


「うっせえな」


「いや、普通もっとあるだろ。世界を救ってくれとか、国を統治してくれとか、世界を支配してくれ、とか」


「そんなもんはねぇ。お前が国盗りしてえなら、それは好きにすればいい」


「えぇ...」


「とにかく俺様を楽しませろ!以上だ」


「...楽しませろって何をすればいいんだよ」


「それは任せる。何でもいい。もう一人で暴れんのは飽きた。それだけだ」


「...楽しませたら、俺はもとの世界に帰れるのか?」


「それは無理」


「むちゃくちゃだな、おい」


 なんて自分勝手なやつなんだ...


 なんだ...けど、ただ1つだけ...

 

 あの光に包まれたと感じた瞬間が、もし本当にそれが召喚のタイミングなら、俺はこいつに救われたことになる。

 

 それを思ってしまった以上、完全には怒りにくい。


 だからと言って礼も言わない。もしかしたら天国でハーレムとかって展開もあり得たかもしれないもの。


 ただ、少し冷静になって思うことは、別にもとの世界に戻ったところで、ほとんど心残りなんてない。あえて言うならマンガとか小説の続きが見れないくらいのことだ。 


 幸いなことにこうして体が無事なんだ。この世界を探索するのも悪くはないかもしれない。 


 それにまだ、ここが本当に異世界と完全に信じたわけじゃない。現実なのか天国なのか地獄なのかは本当のところわからない。それはこれから自分の目で確かめる。


「まあわかった。とりあえずできることからやってやろうじゃないか」


「どうやら覚悟が決まったようだな」


「そんなところだ。ところでお前って名前あるのか」


「メシアだ。よろしく頼むぜ、相棒」


「俺は有栖祐二だ。よろしくな。で早速なんだが、まずは人がいるところに案内してくれ」


「そんなもん知らねえ」


 まじか...いきなり前途多難だな、おい。



 まだまだ序盤ではありますが、これからも順次更新していきます。


 お手数でなければ、評価や感想などいただければ嬉しいです。


 今後ともよろしくお願いいたします。

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