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19 角猪を目指して

 イシスエの町を出て2日。俺とハルは森の中にいた。


 さきほどハルと出会い、初めてこの世界で食事をしたあの休憩所を通りすぎたところだ。今いる場所はその休憩所の北側の森。


 今回の依頼の対象である角猪は、結構色んな所に生息しているらしいので、もっと町の近くでも大丈夫らしいのだが、いい場所があるということでハルに連れてきてもらった。


 依頼で必要なのは角だけだが、実は肉も売れるのだとか。ただ角猪は重く、持ち運びが困難なため、肉を町まで持ち帰って売るのは難しい。だが、この辺だと肉を休憩所で買い取ってもらえるため、少し遠いが実入りのおいしい場所だということだ。


「そう言えば、ハルはあのときは村の調査依頼でこの辺にいたって言ってたよな?」


「そうでしたね」


「ギルドにその依頼がないのは何でだ?」


「本当はあんまり話しては駄目なんですけど、あれは直接依頼と呼ばれる依頼なんです」


「直接依頼?」


「直接依頼はギルド側から直接その人に依頼する形の依頼です」


「そんなのがあるのか」


「はい。主に村の調査などがそれにあたります」


「ほーん、なんでだ?」


「町は大国ルシフルが管理し、村はその地域の町が管理するというのが世界の基本ですが、村によっては町の管理下に入るのを嫌がったり、町がその村を管理するのを放棄したりすることがあるそうです」


「ほうほう」


「村に独自のルールや宗教観があったり、町から追放された犯罪者の集まった村や、捨て子が集まってできた村など、理由は様々あるようですが、そういった村を調査したり陰ながら支援するというのが依頼内容になるので、何人も行くことができませんし、誰でもいいというわけにはいかないようですね」


「なるほどな」


 確かにそれなら、駆け出しの冒険者とか信頼できない奴に依頼を受けてもらうわけにはいかないわな。


「村によっては盗賊のアジトだったり、村を恨んでいる場合もありますから」


「そりゃあ、危険だな...って、ん?なんだ?」


 なんだか森の奥のほうが騒がしい。『探知』を使うと、無数の小動物が騒がしいほうから離れるように逃げていく様子を感じる。


「何かいますね。確認しときましょうか」


「...そうだな」


 ハルはこういうときに必ず確認に行く。逃げるとか離れるとかの選択肢がでたことがない。そのせいで、ちょっと怖い目に遭ったこともあるが、町人や村人、冒険者が魔獣に襲われていることも多く、襲われていると判断した場合は必ず助けに入る。


 そのおかげで救われた身としてはそれを否定することはないが、ただどうかハルが危ない目に遭わないでほしいと願うばかりである。


 『強化』を発動し、ハルの後ろをついていく。『強化』を使うことで身体能力が強化され、普段の動きよりも数倍の速さで動くことができる。最初は自分の意識を超えて体が軽くなり、行動できるのというのに慣れなかったが、努力のかいあって、今では体感で2倍くらいの速さまでなら、問題なく動けるようになった。


 少し行くと、子供の泣き声が聞こえてくる。そして、ぐおぉ、という魔獣のうなり声。


 これは危険な状況かもしれない。


 そう思った瞬間、ハルの姿が消える。


 本気でその場所に向かったのだ。


 と言っても、すでにもうすぐそばだったので、数秒もしないうちに俺の視界にも見えてくる。そこには目付きの鋭い熊みたいな動物がいた。


 尖った爪をハルに振り上げている。ただその爪がそのまま振り下ろされることはなかった。 


 熊が一瞬で文字通り細切れになり、辺りに熊であった色々なものが飛び散る。


 なんだかいつもの様子じゃない。なかなかハルがここまですることはない。


 その場にたどり着いて気付いたが、地面に横たわる女性と少女がそばにいた。少女は泣きながら女性を見つめている。どうしていいのかわからない様子だ。


「だ、大丈夫か?」


 女性に近づくと、地面に血が溢れている。背中には爪痕があった。


「お、おい!」


 やばいんじゃないかこれは。慌てて女性のそばにかがみこむと、見知った女性だった。ミリアである。


「ミ、ミリア!?」


「...ア...リス...さん?」


 息が荒い。顔が赤い。


「大丈夫か!?」


「はぁ、はぁ...わた、しは...大丈夫。女の、子は無...事?」


「大丈夫だ。女の子は無事だぞ」


 抱き支えると体がものすごく熱い。めちゃくちゃ熱がある。


「ハル!」


 慌ててハルを呼ぶが、返事がない。見ると肩で息をしながら、切り刻んだ熊を見つめていた。


「ハル!!」


「えっ!?あっ!はい!!」


 ハルがこちらに振り向く。赤く染まった瞳がふっ、と黒に戻るところでだった。


 最近知ったことだが、あれはアカメ族の種族スキル『超化』というものだ。もともとアカメ族というのは、その力の全てを物理能力に割り振りされた種族らしく、『超化』を使用することで、原始の力を取り戻し、瞬間的に『強化』の何十倍もの力と肉体を手に入れるスキルだ。


 ただあの熊相手に『超化』を使ったのか。それほどの相手には見えなかったが。まあそれほどに、ギリギリのタイミングだったのかもしれない。


「ミ、ミリアさん!?は、早く、傷薬を」


 現状を把握したのか、ハルが持ち物から傷薬を取り出す。


 傷薬は液体で小さな瓶に入っているのを傷口にかけることで効果がある。


「ミリア、少ししみるぞ!」


 俺はハルから傷薬を受け取り、中身の全てをミリアの背中にぶっかける。


「くぅ...」


 しみるのだろう、ミリアから小さな声が漏れるが、傷に対する効き目は抜群だ。とりあえず、溢れ出ていた血が止まる。


 ただ、熱に効果があるわけではないので、ミリアが苦しそうなのは変わりがない。


 近くに休める場所はないだろうか。


 ハルに尋ねようとしたときだった。草が掻き分けられ、ハルくらいの年齢の少年が飛び出してくる。


「ナナ、無事か!?」


 少年はどうやら泣いている少女の関係者であるらしかった。



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