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18 討伐依頼へ

「なあ、討伐の依頼とか行ってみたいんだが?」


「急にどうしたんです?」


「いや、簡単なやつならそろそろ大丈夫かなあ、と思って」


 冒険者の醍醐味だし。俺、結構強くなってきた気がするし。


「...確かにこのままずっと薬草の採集ばかりをするわけにもいきませんもんね」


「俺もそう思って」


「わかりました。それなら明日はそうしましょう」


 これは夜の食事のときの話だ。


 次の朝、寝坊してしまい、いつもより少しだけ遅めにギルドに向かう。


 ハルはすでにギルドにいるみたいだ。昨日自分から言い出したことだが、明日討伐に行くと思うと、色々考えてしまって、寝るのがおそくなってしまった。


 早足でギルドに向かうと、入り口でミリアとすれ違った。俺はここ最近のいつもの通り挨拶する。


「おはよう」


「ぉ、ぉはょ...」


 一見、冷たそうで、無口。無視されているようだが、声の音量が少しおかしいだけで、ミリアはこちらの言葉にちゃんと返してくれている。


 少し前にわかったことだ。


 いつもいるとなんとなく目が合うので、なにも言わないのもな、と思い挨拶だけはするようにしていたら気付いた。


 まあ、かと言って特に挨拶以外の言葉を交わすこともなく、そのまますれ違う。


 ハルはすでに奥にいて、どの依頼を受けるか考えてくれていた。


「すまん、ちょっと寝坊した」


「あっ、おはようございます。すみません、起こそうかとも思ったんですが、ぐっすり眠ってる様子でしたので、考えているうちに来るかなと思いまして」


 ハルと相談した結果、討伐といっても薬草の採集が少しレベルアップした程度のものにとどめる。


 討伐対象は角猪。別に悪さをしているというわけではなく、角が何かしらの材料になるらしい。


 聞いた感じだと、本当に猪に角が生えたような様子っぽいし、丁度いい。


 いきなりウサギみたいな大型の危険な魔獸とかはさすがに怖いし。


 俺はいつも採集をお願いする狐耳のお姉さん、キノさんに伝える。


「今日は角猪の角の採集を頼む」


「あらっ、薬草の採集はおしまいですか?」


「ああ、少しずつステップアップしようと思って」


「さすがはアリスさん。頑張ってください」


 キノさんが手をグーに握り、ファイトです、と応援するような仕草をしてくれる。


 あー、癒される。ほんとになんてかわいらしい人なんだろうか。


「何してるんですか?もう行きますよ」


「あっ、ちょ、ちょっと待ってくれよ」


 ハルがギルドを出ていくのを慌てて追いかける俺であった。






☆☆☆






[ドラウ視点]



 あんまりこういう面倒なのは好きじゃないが、黒い奴らの動向と、村の調査内容などを照らし合わせた結果、一つの結論に至った。


 自分以外の誰かが情報を流している。


 同じ情報を知りうるという点で考えれば、ギルドで働いている者全員が怪しい。


 本格的に調べるなら目ぼしい者に順番にかまをかけていくしかなさそうだ。


 かー、本当にめんどくせぇ。あと、1つだけ不思議なのが、黒い奴らが俺の思考に似た動きをしてるのも気になる。


 ここ最近、そろそろかと思ったところから狙われている。


 いや、むしろ俺の思考に合わせてきてるのか。最近になって露骨になってきてるのは、何かを焦っている...


 ギルドの自室で考えていると、ドアがノックされる。


「なんだ?」


「ロンメルです。定時報告に参りました」 


「おう、ご苦労。入ってくれ」


「失礼いたします」


 ロンメルは生真面目な男だ。その前のことは知らないが、十数年前に先代ギルド長に指名されて以来ずっと副長として働いてくれている。指名される前も、俺が知っている時点からずっと真面目に依頼をこなしていた。場合によってはここを任せようかとも思っている。


 そんなドラウの考えを余所にロンメルが定時報告を始める。


 聞き覚えのあるような似たような報告ばかりだ。一段落ついたところでこちらから聞く。


「全体的に特に問題はなさそうだな」


「はい」


「で、あいつの動きはどうだ?」


「あいつ、ですか?」


「あー、あのアリスとかいうやつだ」


「アリス殿でしたら、ずっと真面目に薬草の採集をしておいでですね。今のところ、怪しい動きも全くないと報告は上がっています」


「そうか。ならもういいぞ」


「はい?」


「もうあいつの動きを見る必要はない。俺から見ても、何もないとしか思えん」


「わかりました。以降動きを追うのはやめにします」


「もう1つ聞きたいんだが?」


「何でしょう?」


「黒の盗賊団なんだが、どう思う?」


 ロンメルが怪訝そうな顔になる。俺の質問の意味を図りかねているようだ。


「どう思うとは、どういうことでしょう?」


「まあ、なんでもいいんだが、最近気付いたこととか、思うことはないか?」


「はあ...そうですね。まずお気づきでしょうが、黒の盗賊団は1つではないように思います」


「ほう」


「その日の気分という可能性もゼロではありませんが、村人全員をさらう場合とそうではない場合があるのは、盗賊団の中身が違うと考えたほうがいいような気がします。ただ少なくとも村人をさらうという目的は同じでしょうから、それが全く別の盗賊団なのか、1つの盗賊団の中に2チームあるのかはわかりませんが」


「なるほどな」


「そして、もう1つ」


「なんだ?」


「盗賊団が2つあると仮定したときに、それぞれの盗賊団の被害などから、その動きをデータとして集めると、1つの盗賊団が1度動いてから次の動きがあるまでに少なくとも4、50日はかかることがデータから推測できます。ただあくまでも仮定からの推測ですので、確実性はありませんが」


「さすがだな。ということはあと10日は盗賊団が動く可能性は低いということか」


「お約束はできませんが」


「いや、よくわかった。時間を取らせてすまんかったな」


「いえ、また何かございましたらお呼びください。では、失礼いたします」


 さすがはロンメルだ。よく調べている。


 ロンメルが部屋から出ていくのを見送ったあと考える。


 村人を全てさらう黒い奴らがでたのが、だいたい30日ほど前、ロンメルの話からすればあと10日は動かないことになるが、さて...


 具体的な数字がでたことだけが少しだけ気になるところだ。


 おそらく近隣村の様子から、次に狙う村はあの村だろう。


 動いたばかりで嫌がるだろうが、ロサリーとダグラスにもう少し働いてもらうことにするか。


 もしタイミングよく黒い奴らがくるようなら返り討ちにするし、そうでないならいつものようにするだけだ。


 この感じだと、ギルドの情報を流している者を特定するより前に、黒い奴らに鉢合うほうが早い気がする。


 そいつらぶっ潰せばいいんだから、そっちのが簡単で手っ取り早い。


「さあ、どうすっかなぁ」


 俺は小さく呟いた。






☆☆☆






[ミリア視点]



 最近、わたしが思うのはもしかしたら友達かもしれないということだ。


 目が合うと必ず挨拶してくれる。


 最初こそ人と話すのが久しぶり過ぎて、自分の声の音量調節がだいぶおかしかった。 


 それでも、あのアリスさんという人は目が合う度に挨拶してくれた。


 さすがにわたしも慣れてきて、聞こえるくらいの声では答えられていると思う。


 毎日ギルドに通い、アリスさんと挨拶するのが、いつの間にか日課になっていて、その日に完結する依頼ばかりを受けていた。


 ただそのせいで、少し財布の中身が危なくなってきてしまった。


 当日限りで終わるような依頼は総じて、依頼達成料は控えめなのだ。


 アリスさんとの挨拶は捨てがたいが、ここは涙をのんで遠出する。


 ただ、アリスさんのことを考えると、頭がぽーっとしてくる。やけに顔が熱い。


 そして、なんだか頭も熱い。視界も歪んできた気がする。冷や汗が止まらない。


 あれ、なんだろこれ?


 心なしか足もふらつく。


 あれ、これはもしかして体調がおかしいかもしれない。


 えと、いったいわたしはどこに向かってるんだっけ?


「きゃー!!」


 そんな中、突然悲鳴。


 わたしは朦朧としながら、声のする方へ向かった。



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